日生劇場 開場60周年記念ラインナップ

節目を飾る珠玉の6作品に 日本を代表するクリエイター陣が集結

日生劇場場内

オペラと児童文化を柱に歴史を重ねてきた劇場の新たな一歩

 1963年10月20日、ベルリン・ドイツ・オペラの引越し公演《フィデリオ》で幕を開けた日生劇場が、今年、開場60周年を迎える。劇場を運営するニッセイ文化振興財団は「届ける(優れた舞台芸術を制作・上演する)」「育む(青少年の豊かな情操を育てる)」「支える(舞台芸術を支える人材を育成する)」という3つの基本理念のもと、オペラやミュージカルのみならずバレエや人形劇など様々な舞台上演を続けてきた。日生劇場といえば誰もが最初に思い出すのが、児童・青少年を対象にした〈ニッセイ名作シリーズ〉だ。その源は、開場の翌年に始まった小学校6年生をミュージカル公演へ無料招待する〈ニッセイ名作劇場〉にさかのぼることができる。2022年11月の時点で、舞台上演を無料で体験した子どもたちの数は、累計で800万人に達しているという(かくいう私も〈名作劇場〉で初めて日生劇場を訪れたひとりだ)。日生劇場の歴史は、まさに、日本という西洋から遠く離れた国で人々がどのように西洋発祥の舞台芸術を受け止め、愛し、育んできたかを物語っている。そんな日生劇場の開場60周年記念の主催公演には、現在、舞台芸術の様々なジャンルで活躍する人々が結集。この劇場のアニバーサリーにふさわしい、意欲的かつエンタテインメント性にもあふれる作品が並んだ。

 1985年から続いている〈NISSAY OPERA〉シリーズは3作品が上演される。もっとも注目されるのは、ケルビーニ作曲《メデア》の日本初演だろう。18世紀末から19世紀の初めにパリで活躍した作曲家ルイージ・ケルビーニが、ギリシャ悲劇を題材に人間の情念を緻密に描いた作品で、長らく忘れられてきたが、1953年にマリア・カラスが歌ったことでオペラ史によみがえった。近年イタリア・オペラの世界で大活躍の園田隆一郎の指揮のもと、岡田昌子、中村真紀というふたりのドラマティック・ソプラノをタイトルロールに起用。また開場50周年作品《リア》以来10年ぶりの日生劇場登場という演出の栗山民也が、このオペラ史上屈指の問題作をどう描き出すのか、期待がかかる。

 人間心理を鋭く描き出すヴェルディの《マクベス》も楽しみな一作。様々な時代、様々な作曲家のオペラを上演している日生劇場だが、意外にもヴェルディ作品は1970年以来53年ぶりだという。演出は日生劇場芸術参与の粟國淳。そしてびわ湖ホール芸術監督として辣腕を振るってきた沼尻竜典がタクトをとる。タイトルロールには、今井俊輔、大沼徹というスター・バリトンが配され、その他のキャストも日本のオペラ界の第一線で活躍するメンバーが揃った。また、振付・ステージングに、演劇やオペラ、ダンスなど幅広く活躍する広崎うらんがクレジットされているのにも注目したい。

 東京二期会との共催公演となる《午後の曳航》は、三島由紀夫の小説をハンス・ヴェルナー・ヘンツェがオペラ化したもので、1990年にベルリン・ドイツ・オペラで初演。その後2003年にゲルト・アルブレヒト指揮の読売日本交響楽団が演奏会形式で日本語版を初演している。本公演は2005年の改訂ドイツ語版となる。宮本亞門が《金閣寺》に続き2作目の三島作品演出となるが、宮本自身この作品を「いつかは演出したい」と熱意を語っている。指揮はザルツブルク音楽祭などで活躍するアレホ・ペレス。

 そのほか、〈日生劇場ファミリーフェスティヴァル〉として、大人気ファンタジー小説『精霊の守り人』と、画家・絵本作家ヒグチユウコの絵本『せかいいちのねこ』が初舞台化される。また、谷桃子バレエ団による『くるみ割り人形』は今回のために特別に改訂演出・振付が施された“日生劇場版”とのこと。

 60年というのは、日生劇場で初めての舞台鑑賞を経験した世代にそろそろ孫もできようかという年月だ。歴史の重みとともに、新たな一歩を踏み出そうとする劇場の意欲的な姿勢も十分に感じられるラインナップは、どれも見逃せない作品ばかりだ。
文:室田尚子
(ぶらあぼ2023年3月号より)

【information】
日生劇場 開場60周年記念 主催公演ラインナップ

[NISSAY OPERA 2023]
《メデア》 
2023.5/27(土)、5/28(日)各日14:00 
指揮:園田隆一郎 演出:栗山民也 管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
出演:岡田昌子、中村真紀(以上メデア)、清水徹太郎、城 宏憲(以上ジャゾーネ) 他
《マクベス》 
11/11(土)、11/12(日)各日14:00 
指揮:沼尻竜典 演出:粟國 淳 管弦楽:読売日本交響楽団
出演:今井俊輔、大沼 徹(以上マクベス)、田崎尚美、岡田昌子(以上マクベス夫人) 他
《午後の曳航》東京二期会との共催公演 
11/23(木・祝)17:00、11/24(金)14:00、11/25(土)14:00、11/26(日)14:00
指揮:アレホ・ペレス 演出:宮本亞門 管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

[日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2023]
音楽劇『精霊の守り人』 
7/29(土)〜8/6(日) 
原作:「精霊の守り人」 上橋菜穂子作 偕成社刊 脚本:井上テテ 演出:一色隆司
舞台版『せかいいちのねこ』 
8/19(土)、8/20(日) 
原作:「せかいいちのねこ」 ヒグチユウコ作 白泉社刊 脚本・演出・振付:山田うん
バレエ『くるみ割り人形』〜日生劇場版〜 
8/25(金)〜8/27(日)
演出・振付:谷 桃子 改訂演出・振付:髙部尚子 出演:谷桃子バレエ団

問:日生劇場03-3503-3111 
https://www.nissaytheatre.or.jp 
※ラインナップの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。