アミハイ・グロス(ヴィオラ)

世界最高峰の奏者が魅せる深淵なヴィオラの世界

(c)Marco Borggreve

 1月のN響定期にバルトーク「ヴィオラ協奏曲」ソリストとして登場し、圧巻の演奏と存在感を示した、ベルリン・フィル首席ヴィオラ奏者のアミハイ・グロス。3ヵ月連続で来日し、1月協奏曲、2月リサイタル、3月室内楽と違う立場でヴィオラの魅力を伝える。

 「今シーズンの自分のハイライトになります! 日本での演奏はいつも格別な経験になり、聴衆の皆さまからは高い集中力と、演奏への感謝のような気持ちを感じます」

 グロスは1979年エルサレム生まれ。ヴァイオリンから転向したのは11歳で、「暗めな音が自分には必要と感じていた頃で、初めてヴィオラを持った瞬間、これが自分の楽器だと確信したのです」と振り返る。それから数年後、わずか14歳でエルサレム弦楽四重奏団創設メンバーとなり、名クァルテット奏者として長年活動。「他の分野をもっと経験したい」と考えてフリーの奏者になった後、2010年のベルリン・フィル入団に至る。

 「オーケストラ経験はなかったのですが、運命が自分を導いてくれました。毎回が最高のコンサートで興奮の毎日です。この経験はソロにも良い影響を与えていると思います」

 2月のリサイタルは名古屋と東京の3会場で行われる。ピアノはベルリンでも活躍中の三浦謙司。3回共通の演目はブルッフ「コル・ニドライ」とショスタコーヴィチ最後の作品であるソナタ。

 「ブルッフは幼少期からエルサレムで聴いていた旋律による祈りの音楽です。この曲を通して自分の感情を分かち合えるのは嬉しいです。ショスタコーヴィチはヴィオラ奏者にとって最も重要な作品です。作曲時は非常に体調が悪く、数多くの引用は自身の人生を振り返っているかのようで、人生を締めくくるという覚悟に心揺さぶられます。皆さまに彼の“人生の旅路”を感じてもらえる演奏をしたいですね」

 他の演目は、「弾くたびに自分が人生のどの段階にいるかを意識する」というシューベルト「アルペジオーネ・ソナタ」の日と、ブラームスのソナタ第1番とブリテンの無伴奏の「エレジー」の日があり、いずれも注目だ。また、3月にも改めて来日して、樫本大進はじめベルリン・フィルの仲間らとともに、「ヴィオラに特別な役割があって好きな編成」というピアノ四重奏曲の名品を聴かせる。

 ヴィオラの魅力は「音の多様性」と語り、先述の協奏曲では「ソリストだけが重要ということはありません。できるだけ自分もオケの支えになれれば」とオーケストラの間奏にも熱い反応を見せて、アンコールではN響首席奏者の佐々木亮とともにバルトークの二重奏を披露。自らがどんな立場であろうとも、常に他者との関わりに喜びを見出す。やはり世界屈指の“ヴィオリスト”だ。その深く美しい音と演奏姿、ぜひとも会場で直接触れたい。
取材・文:林昌英
(ぶらあぼ2023年3月号より)

アミハイ・グロス(ヴィオラ) & 三浦謙司(ピアノ) デュオ・リサイタル
2023.2/27(月)19:00 東京文化会館(小)
問:ヒラサ・オフィス03-5727-8830 
https://www.hirasaoffice06.com
他公演 
2/25(土) 名古屋/Halle Runde(052-846-8566)
2/26(日) 武蔵野市民文化会館(小)(0422-54-8822)

愛知室内オーケストラ 第50回定期演奏会
2/23(木・祝)名古屋/三井住友海上しらかわホール(愛知室内オーケストラ052-211-9895)

東京・春・音楽祭 ベルリン・フィルのメンバーによる室内楽 【配信あり】
3/18(土) 東京文化会館(小)(東京・春・音楽祭サポートデスク03-6221-2016)