第10回 神戸国際フルートコンクール 披露演奏会

未来のクラシック界をリードする5人のフルーティストが神戸および東京へ 

 新人が登竜門として目指す栄えあるタイトル。ベルリン・フィルやシカゴ響やコンセルトヘボウ管など、世界のトップ・オーケストラの首席奏者が歴代入賞者から輩出している事実ひとつとっても、神戸国際フルートコンクールはその名にふさわしい。神戸の街に根付いたイベントというだけでなく、熱心な聴き手が全国から足を運び、フルート界の“今”に触れながら次代を担う人材を目と耳で確かめる場とも化した感がある。筆者もこれまで3回、予選ラウンドから参加者全員の演奏に接する機会を得たが、休憩時間にロビーで談笑しながら「前回の誰某に比べてね……」などと鋭い言葉を発している方々がいて、大いに刺激を受けた。ホールを訪れた聴衆からの投票で選ばれるオーディエンス賞まで、本選の順位に華を添える上で見逃せない価値を持つ理由である。

 こうしたコンクールだけに、2021年から22年にかけての第10回がコロナ禍のもとでオンライン開催となったのは、若き俊秀たちの生演奏を聴く場を期待していたファンにとっては少々残念な事態ともいえよう。応募者の数が483人と過去最多を記録していただけに、なおさらのこと(予備選考を経て出場を果たした53人の演奏動画はコンクールの公式ウェブサイトで視聴可能)。しかしその渇を癒してくれるのが、入賞者たちによる披露演奏会だ。これまでもコンクール最終日に神戸で開催される恒例のコンサートだったが、今回初めて東京公演が実現する運びとなったのは喜ばしい。

 神戸文化ホールと東京の浜離宮朝日ホールを舞台とする披露演奏会に登場する5人は実に国際色が豊かだ。1位のラファエル・アドバス・バヨグ(スペイン)、同じく1位のマリオ・ブルーノ(イタリア)、3位の石井希衣(日本)、同じく3位のマリアンナ・ユリア・ジョウナッチェ(ポーランド)、6位のジョイディ・スカーレット・ブランコ・ルイス(ベネズエラ)。5位のアンナ・コマロワ(ロシア)はスケジュールの都合で欠場。フルートを手にして発揮される“お国柄”や、それを超えて大きな潮流をなす演奏スタイルの傾向などに関心を寄せながら接するのも一興だろう。各人が得意の曲目を選んで臨むだけに、順位を忘れて楽しむに足るパフォーマンスが繰り広げられることは保証済みである。

 神戸文化ホールでは同じ日の夜の部に(公演全体が“Double Bill(ダブルビル)”と称するゆえんだ)、優勝記念演奏会が開催される。1位に輝いた2人がそれぞれ3曲、ソナタや室内楽曲や無伴奏曲を演奏し、さらにはデュオ作品でも共演するという、これも興味津々のステージとなる。ちなみにアドバス・バヨグは2017年からミュンヘン音大で研鑽を積み、ブルーノはシュトゥットガルト音大を卒業後ミュンヘン音大のExcellence in Performanceコースに進み、21年からカッセル国立管の首席奏者。披露演奏会に出演する面々ともども、世界が注目する若き才能が将来射止めるであろう、さらなるビッグ・ポジションのことも頭に思い描きつつ、客席に身を置いてみたい。
文:木幡一誠
(ぶらあぼ2023年2月号より)

【神戸公演(Double Bill)】
2023.2/23(木・祝)神戸文化ホール(中)
[Stage1. 披露演奏会]14:00
[Stage2. 優勝記念演奏会]19:00
【東京公演】
2/24(金)19:00 浜離宮朝日ホール
問:神戸文化ホールプレイガイド078-351-3349
https://kobe-flute.jp