アーツカウンシル東京の「東京芸術文化創造発信助成」、令和5年度の公募開始!

INTERVIEW 安達真理(ヴィオラ)「内容重視の審査で、背中を押してもらえました」

取材・文:池田卓夫(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)
資料提供: アーツカウンシル東京

 東京が拠点の芸術家や芸術団体の公演活動などを助成する「東京芸術文化創造発信助成」。令和5年度(2023年度)の募集が1月27日に始まった。音楽をはじめ、演劇、舞踊、美術・映像、伝統芸能等幅広い分野を対象に、都内および海外での活動を3つのカテゴリーで助成している。カテゴリー I は、個人と団体を対象に公演や展示等の公開活動を支援する「単年助成」。カテゴリー II は、作品発表だけでなく、リサーチや試演など創作プロセスも含めて最長3年間助成する「長期助成」。カテゴリー III は、人材育成やアーカイブ整備など「芸術創造環境の向上に資する事業」を対象としている。

 東京・九段のアーツカウンシル東京で企画部助成課の菊地麻維シニア・プログラムオフィサーの話を聞いた。
「税金を使うプロジェクトですから、助成を通じてアーティストが社会との関わりに気づき、考えるきっかけになってほしいと願います。古典芸能や再現芸術に携わっていらっしゃる方々は『適合しにくい』との印象をもたれるかもしれませんが、実際には古楽の採択例もあります。ポイントは、従来の表現手法や活動の繰り返しではなく、新たな創造に向かってのチャレンジをしていることです」

 音楽分野では、過去数年、申請数が増え続けてきたが、前回の「単年助成」の公募では2年半ぶりに減少に転じ、前年の6割程度の申請数にとどまった。採択事業としては、ピアノを中心にした音楽フェスティバル、さまざまな演奏会や講習会など3日間にわたる合唱の祭典、現代音楽アンサンブルの企画公演、チェロリサイタル、現代作曲家の個展、日本の現代音楽や古典・現代邦楽を海外に紹介する国際交流事業などさまざまだ。 「単年助成」の 助成額も40万円から320万円まで幅のある結果だった。

 具体的な助成メリットについて、2022年度の採択者となったヴィオラ奏者の安達真理へのインタビューを行った。事業名は2022年11月10日に代々木上原MUSICASAで開催した「MARI ADACHI presents 武満徹 × シキ・ゲン」。

(c)平舘平

── かなりマニアックな内容の自主公演ですね。

「能声楽家の青木涼子さんの演奏会でオーストリアに留学中の若い(1995年生まれ)中国人作曲家、シキ・ゲンさんの曲を初めて演奏しました。現代音楽にありがちな難解さがなく、感覚から共感できた作品です。青木さんの公演後、無伴奏ヴィオラの新作を委嘱したところ、1ヵ月で完成させてしまい驚きました。2019年度の武満徹作曲賞で第1位を受けたこともあり、とても日本がお好き。日本語も独学して、メールも楽曲解説も日本語で送ってきます。有名なソリストが一握りのレパートリーを限られた聴衆の前で弾くことだけでアートが成立するのか、かねてから疑問に思ってきました。シキさんの新作を発表するにあたり、作曲賞の縁もさることながら、感触的にも近いと思える武満徹さんの作品とのコラボレーションにしました。(安達真理、以下同)

シキ・ゲン:無伴奏ヴィオラ・ソナタ第1番「シャガールの絵のように」
シキ・ゲン:無伴奏ヴィオラ・ソナタ第2番「夜想曲のように」

── 助成は役立ちましたか?

「採択されなかったとしても、委嘱新作は初演するつもりでした。シキさんにとっては正式に委嘱料を得た最初の作品でもあり、公的機関の助成をいただき、さらなる勇気を授かったと思います。もちろん日本への渡航費用、割安な学生料金の設定(一般前売り4,500円に対し、2,500円)などにも、とても役立ちました。今回私にとっては、交付額の多寡は最重要ではありませんでした。マニアックな企画に孤独感や不安も覚えるなか、審査では内容を重視して、いちばん大事なところが理解され、背中を押してくださったことが何よりも嬉しかったです」

── 公演後もコロナ禍の出口が見えない中、意識の変化はありましたか?

「コロナ禍で音楽は社会にとって必要ないという声も聞かれ、我々の存在価値が一気に崩れ、孤独感を深めていきました。『良い音楽をする前提とは何か?』を自問自答するなか、社会とのつながりを改めて自覚し、自分たちが本当に良いと考える音楽を社会に役立ち、欠かせないものとしてきちんと提示する義務を痛感しました。以前は『素晴らしいアートをやっていれば、それでいい』と思いがちで、作品の成立背景や新しいプロジェクトの目的についても充分にお伝えする責任を果たしていなかったと気づいたのです。お客様が共感、共鳴して生まれる何かが私たちの感覚にも伝わり、反応する相互作用の瞬間の積み重ね……聴く側も『自分事』として捉えていただけるよう問いかけ続けることも創造性の一面であり、芸術の持てる力を最大限に発揮する道でしょう。そこに助成制度が存在するのは、とてもありがたいと思います」

(c)平間至

【Information】
アーツカウンシル東京
令和5(2023)年度「東京芸術文化創造発信助成」
【申請受付中】
締切(消印有効)
カテゴリー I 2023.3/7(火)
カテゴリー II、III 2023.2/28(火)
■申請する活動(発表)の場所
東京都内または海外
■申請者の資格
東京都内に本部事務所や本店所在地が存在する芸術団体等、
または東京都内に居住する個人に対し、事業経費の一部を助成
■補助率と申請上限額
●カテゴリーI 単年(団体・個人)
1 都内での芸術創造活動
団体:200万円 個人:50万円、かつ、助成対象経費の1/2以内
2 国際的な芸術交流活動
団体:400万円 個人:50万円、かつ、助成対象経費の1/2以内
●カテゴリーII 長期(団体)
800万円(2年間)、1,200万円(3年間)、かつ、助成対象経費の1/2以内
●カテゴリーIII 単年・長期(団体)
長期:400万円(2年間)、600万円(3年間) 、かつ、助成対象経費の2/3以内
単年:100万円、かつ、助成対象経費の2/3以内
■助成対象事業の実施期間
単年助成:2023年7月1日以降に開始し2024年6月30日までに終了する事業
長期助成:2023年7月1日から2年間または3年間
2023年度 第1期 東京芸術文化創造発信助成 公募説明会(オンライン)
2023.2/9(木)、2/16(木)、2/20(月) <事前申込制>
公募ガイドラインに沿って、対象となる活動や経費について詳しく説明します。説明の後に質問の時間も設けています。詳しい日時やお申し込み方法は下記URLからご確認ください。
https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/news/56116

問:東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京 企画部 助成課 03-6256-8431(平日10:00から18:00)
josei@artscouncil-tokyo.jp
https://www.artscouncil-tokyo.jp