東京春祭2023を彩る、期待度満点のオペラ3作品

リッカルド・ムーティによるアカデミーも再開!

文:林田直樹

東京・春・音楽祭が特別な理由のひとつとして、国際的に見てもトップクラスのオペラ上演が常に約束されていることが挙げられる。2023年の注目公演をみていこう。

2022.3/30《ローエングリン》(c)Spring Festival in Tokyo 2022 Fumiaki Fujimoto

東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.14
《ニュルンベルクのマイスタージンガー》(4/6,4/9)

 毎年の看板演目となってきたワーグナー・シリーズは、2010年の《パルジファル》以来ずっとN響で演奏会形式による上演が続けられている。N響は本来ドイツ・オーストリア音楽をもっとも得意とするオーケストラ。これはN響にとっても彼らの伝統を再確認する上でも、1年のうちで特に重要な公演なのである。
 今年(2022年)83歳のマレク・ヤノフスキは、これまでにもっとも登場回数が多いマエストロ。そのワーグナー解釈は明晰さと劇的なダイナミズムを併せ持つもので、幾多の名演を繰り広げてきた。一回一回の本番がますます貴重になってきている。

2022.3/30《ローエングリン》(c)Spring Festival in Tokyo 2022 Taira Tairadate

 ヤノフスキに以前取材したとき、旧来の重々しく、深く、暗く、というワーグナー演奏の伝統に対して、現代ではいかに演奏するべきだと思うか、という筆者の問いに対してこう答えてくれたことがあった。
「そうですね、ワーグナーの全体的な響き――それは対位法的な部分がたくさん登場してくると思うのですが――を聴かせるには、重たい演奏は絶対にできない。そのなかで、音楽のドラマ性を奪うのではなく、それを残したままクリアに伝えるように演奏するべきだというのが私の考えです」
 ヤノフスキはヘンツェやハルトマンやクシェネックなどの20世紀作品を多く演奏してきているが、その経験は当然ワーグナーに生かされていると、ヤノフスキ自身もこのとき認めてくれたのを思い出す。
 今回の《マイスタージンガー》はキャスティングも強力。特に主役ハンス・ザックスをエギルス・シリンスが歌うのが楽しみだ。ザックスこそがこの祝祭的なオペラの中心として風格を放っていなければならないからだ。

左:マレク・ヤノフスキ(c)Felix Broede 右:エギルス・シリンス

東京春祭プッチーニ・シリーズ vol.4
《トスカ》(4/13,4/16)

 ワーグナー・シリーズに匹敵するもうひとつの柱として、東京春祭プッチーニ・シリーズが2020年から始まっている。コロナ禍で2年連続の中止となってしまったが、N響のワーグナー・シリーズに対して読響のプッチーニ・シリーズに寄せられる期待は大きい。

2022.4/15《トゥーランドット》(c)Spring Festival in Tokyo 2022 Fumiaki Fujimoto

 実はプッチーニを演奏する機会は、シンフォニー・オーケストラにとってはそれほど多くはない。だからこそ、プッチーニの演奏経験はオーケストラを大きく飛躍させる。ある指揮者は「シェーンベルクはプッチーニのように演奏されるべきであり、プッチーニはシェーンベルクのように演奏されるべきだ」と言ったことがある。つまり、20世紀音楽における最重要局面のひとつとしてプッチーニは捉えられるべきだという意味である。近年20世紀音楽への積極的な取り組みで大きな成果を挙げている読響だからこそ、底力のあるプッチーニ演奏も可能となるだろう。今回タクトをとるフレデリック・シャスランは、ウィーン国立歌劇場を中心に欧米各地の劇場で膨大なレパートリーと経験を誇るオペラ指揮者であり、かつてはピエール・ブーレーズのアシスタントとしてアンサンブル・アンテルコンタンポランにいたこともあり、作曲家としても多くの作品を残している。大変な実力者というべきだろう。
 トスカ役のクラッシミラ・ストヤノヴァ、カヴァラドッシ役のピエロ・プレッティとも欧米のオペラ界の第一線で活躍中で、二人ともムーティからの評価も高い。スカルピア役にはブリン・ターフェル。世界最高のバリトンの一人であるターフェルが、得意のスカルピアをどう演じるのか。演奏会形式ではあっても、その百戦錬磨の経験がどうにじみ出るのか楽しみである。

左より:フレデリック・シャスラン(c)Martinez、クラッシミラ・ストヤノヴァ(c)Brescia e Amisano Teatro alla Scala、
ピエロ・プレッティ、ブリン・ターフェル(c)Mitch Jenkins DG

リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.3
ヴェルディ《仮面舞踏会》(3/18〜4/1)

 N響のワーグナー、読響のプッチーニ、そしてムーティのヴェルディ。この3要素がいまの東京春祭のメインである。2019年、21年、22年に続いてリッカルド・ムーティが来てくれる。ヴェルディを指揮するのは2021年以来となる。81歳だが、意気軒高。あらゆるクラシック好きがぜひともライブで接しておくべきマエストロだ。

2022.3/18リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ
(c)Spring Festival in Tokyo 2022 Naoya Ikegami

 ムーティの業績はオペラとコンサートの双方において膨大なものがあるが、とりわけミラノ・スカラ座やウィーン国立歌劇場で行なってきた仕事を振り返ると、数々の伝統や習慣の上に成り立ってきたイタリア・オペラの上演を、原典尊重という視点から常にリフレッシュしてきたということが挙げられる。その中心にあるのがヴェルディだ。今回2年ぶり3回目の開催となる「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」でもムーティの深い洞察と劇的表現の真髄を知ることのできる絶好の機会となるだろう。
 近年のムーティの音楽作りは、さらに芸境を深めている。2021年の《マクベス》第1幕終わりの大コンチェルタートは今も忘れられない。劇場全体に膨張していくような巨大なリタルダンドで、盛り上がっていく、あの強靭でじっくりと息の長い歌は、ムーティならではの独壇場である。
 今回は《仮面舞踏会》。友情と裏切り、隠された恋、為政者の暗殺、人生への夢と諦め、ヴェルディの傑作に共通するすべての劇的要素と歌の魅惑が詰まっている。
 リッカルド役のアゼル・ザダはナクソスから素晴らしいオペラ・アリア集が出ているが、逞しさと音楽性を兼ね備えたテノールである。アメーリア役ジョイス・エル=コーリー、レナート役セルバン・ヴァシレともども、ムーティの厳しい選択眼にかなった旬の歌手たちが揃う。上演に接するのがいまから楽しみでならない。

2021.4/19《マクベス》(c)Spring Festival in Tokyo / Satoshi Aoyagi
リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.1(2019年)より
(c)東京・春・音楽祭実行委員会/青柳 聡

■リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.3《仮面舞踏会》

リッカルド・ムーティによる《仮面舞踏会》作品解説
2023.3/18(土)19:00 東京文化会館
●出演
登壇:リッカルド・ムーティ
管弦楽:東京春祭オーケストラ
●料金(税込)
全席指定¥4,500
U-25¥2,500(U-25チケットは2023.2/16(木)12:00発売)

リッカルド・ムーティ指揮《仮面舞踏会》(演奏会形式/字幕付)
3/28(火)、3/30(木)各日18:30 東京文化会館
●出演
指揮:リッカルド・ムーティ
リッカルド(テノール):アゼル・ザダ
アメーリア(ソプラノ):ジョイス・エル=コーリー
レナート(バリトン):セルバン・ヴァシレ
ウルリカ(メゾ・ソプラノ):ユリア・マトーチュキナ
オスカル(ソプラノ):ダミアナ・ミッツィ
シルヴァーノ(バリトン):大西宇宙
サムエル:山下浩司
トム:畠山 茂
管弦楽:東京春祭オーケストラ
合唱:東京オペラシンガーズ 他
●料金(税込)
S¥29,000 A¥24,500 B¥20,500 C¥16,500 D¥12,500 E¥8,500
U-25¥3,000(U-25チケットは2023.2/16(木)12:00発売)

リッカルド・ムーティ introduces 若い音楽家による《仮面舞踏会》(抜粋/演奏会形式/字幕付)
4/1(土)19:00 東京文化会館
●出演
指揮:イタリア・オペラ・アカデミー指揮受講生
リッカルド(テノール):石井基幾
アメーリア(ソプラノ):吉田珠代
レナート(バリトン):青山 貴
ウルリカ(メゾ・ソプラノ):中島郁子
オスカル(ソプラノ):中畑有美子
シルヴァーノ(バリトン):大西宇宙
サムエル:山下浩司
トム:畠山 茂
管弦楽:東京春祭オーケストラ
合唱:東京オペラシンガーズ 他
●料金(税込)
全席指定¥5,000
U-25¥2,000(U-25チケットは2023.2/16(木)12:00発売)

※イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.3 《仮面舞踏会》の聴講(3/19 時間未定)を含むセット券(47,300円/東京・春・音楽祭オンライン・チケットサービスのみで取扱い)についてはこちら

■東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.14
《ニュルンベルクのマイスタージンガー》(演奏会形式/字幕付)

4/6(木)、4/9(日)各日15:00 東京文化会館
●出演
指揮:マレク・ヤノフスキ
ハンス・ザックス(バス・バリトン):エギルス・シリンス
ファイト・ポークナー(バス):アンドレアス・バウアー・カナバス
クンツ・フォーゲルゲザング(テノール):木下紀章
コンラート・ナハティガル(バリトン):小林啓倫
ジクストゥス・ベックメッサー(バリトン):アドリアン・エレート
フリッツ・コートナー(バス・バリトン):ヨーゼフ・ワーグナー
バルタザール・ツォルン(テノール):大槻孝志
ウルリヒ・アイスリンガー(テノール):下村将太
アウグスティン・モーザー(テノール):髙梨英次郎
ヘルマン・オルテル(バス・バリトン):山田大智
ハンス・シュヴァルツ(バス):金子慧一
ハンス・フォルツ(バス・バリトン):後藤春馬
ヴァルター・フォン・シュトルツィング(テノール):デイヴィッド・バット・フィリップ
ダフィト(テノール):ダニエル・ベーレ
エファ(ソプラノ):ヨハンニ・フォン・オオストラム
マグダレーネ(メゾ・ソプラノ):カトリン・ヴンドザム
夜警(バス):アンドレアス・バウアー・カナバス
管弦楽:NHK交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:エベルハルト・フリードリヒ、西口彰浩
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン
●料金(税込)
S¥26,000 A¥21,500 B¥17,500 C¥14,000 D¥11,000 E¥8,000
U-25¥3,000(U-25チケットは2023.2/16(木)12:00発売)

■東京春祭プッチーニ・シリーズ vol.4
《トスカ》(演奏会形式/字幕付)

4/13(木)18:30、4/16(日)15:00 東京文化会館
●出演
指揮:フレデリック・シャスラン
トスカ(ソプラノ):クラッシミラ・ストヤノヴァ
カヴァラドッシ(テノール):ピエロ・プレッティ
スカルピア(バス・バリトン):ブリン・ターフェル
アンジェロッティ(バリトン):甲斐栄次郎
堂守(バス・バリトン):志村文彦
スポレッタ(テノール):工藤翔陽
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ 他
●料金(税込)
S¥25,000 A¥20,500 B¥16,500 C¥13,500 D¥10,000 E¥7,000
U-25¥3,000(U-25チケットは2023.2/16(木)12:00発売)


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東京・春・音楽祭サポートデスク03-6221-2016