【CD】ベートーヴェン 三大ピアノソナタ〜松本和将ライブシリーズ10

 「単に娯楽として弾くのなら、この音楽から離れた方が良い…生死を賭して、弾くべきものだから」。松本和将が弾く「悲愴」冒頭のコードを聴いた瞬間、巨匠バレンボイムがベートーヴェンのソナタに関して語った言葉が、ふいに頭をよぎった。魂を込めたひと打ちとともに、あふれ出す音楽。20代後半〜30代半ばに書かれた3曲は、晩年のように屈折したものではなく、青年らしい、率直な楽聖の感情を反映している。真正面からこれらを受け止める真摯な松本のプレイは、鏡のごとく澄んで明晰。このライブ録音は、聴衆の間へ静かに波及してゆく、感情の空気感すら具に捉えている。
文:笹田和人
(ぶらあぼ2022年12月号より)

【information】
CD『ベートーヴェン 三大ピアノソナタ〜松本和将ライブシリーズ10』

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」、同第21番「ワルトシュタイン」、同第23番「熱情」

松本和将(ピアノ)

収録:2021年11月、浜離宮朝日ホール(ライブ)
オクタヴィア・レコード
TACD-159 ¥3300(税込)