沼尻竜典びわ湖ホール芸術監督が最終5演目に込める想い

 びわ湖ホールで10月24日、「びわ湖ホール 沼尻竜典・ラスト・スパート」と題した会見が行われ、2022年度末で同ホール芸術監督の任期を終える沼尻竜典が、ラストを飾るプロジェクトの聴きどころを語った。沼尻はホール企画の核であるオペラ公演、「ジルヴェスター・コンサート」「マーラー・シリーズ」を含む5公演を指揮する予定で、これらが今年度事業のハイライトとなる。

沼尻竜典 提供:びわ湖ホール

 会見で沼尻は、「本当の意味でオペラが面白いなと思ったのは、ここに来てからですね。歌手それぞれの良さを引き出してきたという自負はあります」と、オペラ・プロジェクトを中心に取り組んできたびわ湖ホールでの16年を振り返る。残る5つの演目は、どれも思い入れのある企画が並ぶ。
 まずは、2007年の芸術監督就任以来、びわ湖ホールオリジナル制作や国内外の劇場との共同制作で実施されてきた「沼尻竜典オペラセレクション」。シリーズ最終作となる15作目は、11月26日、27日の2日間、日生劇場と提携してロッシーニ《セビリアの理髪師》が2020年に中止となった振替公演として上演される。演出は粟國淳が手がけ、歌手はアルマヴィーヴァ伯爵の中井亮一、小堀勇介、ロジーナの富岡明子、山下裕賀、フィガロの須藤慎吾、黒田祐貴ほかダブルキャストで出演。黒田博(バルトロ)と黒田祐貴の親子が組違いでキャスティングされたのも話題となりそうだ。

 続いて12月の大晦日は、1998年の開館以来、毎年恒例の「ジルヴェスター・コンサート」を今年も開催。沼尻が芸術監督就任時の「プロデュースオペラ」で振った《ばらの騎士》が組曲版で披露される。2020年より、カウントダウンの真夜中から昼間の時間帯に変更。この2年間、一般募集・結成が叶わなかったジルヴェスター合唱団&ファンファーレ隊が満を持して復活となる。

左:村田和彦(びわ湖ホール館長) 右:村島美也子(びわ湖ホールプロデューサー) 提供:びわ湖ホール

 2023年1月には、オペラ鑑賞者の裾野の拡大を目的とした「びわ湖ホール オペラへの招待」シリーズで、林光のオペラ《森は生きている》(演出:中村敬一)を4日間にわたって上演。若杉弘・初代芸術監督時代のびわ湖ホール初演時に指揮した沼尻が、ふたたびタクトを執る。
「この企画を通して9年間びわ湖ホールに関わり年に2回指揮台に立っていたことで、その後16年にわたって監督が続けられる心構えができたのだと思います。《森は生きている》は林先生に指揮していただいたこともあり、作曲者自身から直接指導を受けてきたオペラ作品。びわ湖ホールの財産です」
 沼尻自身が2000年、林に室内オーケストラ版の編曲を依頼し、びわ湖ホール声楽アンサンブルと共に初演した思い出深い作品である。

 3月は、プロデュースオペラ《ニュルンベルクのマイスタージンガー》と「マーラー・シリーズ」で登場する。
 「創造する劇場」を掲げるびわ湖ホールが1998年の開館時より毎年実施してきた「プロデュースオペラ」では、3月2日、5日にワーグナーの《ニュルンベルクのマイスタージンガー》をセミ・ステージ形式で上演。「オペラをやっていると文化の違いの難しさにぶつかる。イタリア育ちの粟國さんが支えてくださることで舞台がしまっていくんです」と、厚い信頼を置く粟國を今作でも演出に起用し、福井敬、黒田博、青島貴、森谷真理ほか国内外で活躍する歌手が集結する。
 続く「マーラー・シリーズ」は、京都市交響楽団との好評シリーズで、今年で3回目の開催。コロナ禍の状況を考慮し声楽を伴わない交響曲第6番「悲劇的」を取り上げる。「芸術監督をやめるから『悲劇的』を選んだのかというツッコミもいただきました」と笑い、「ハンマーを叩く回数は、いつもは2回にしてきたのですが私も今まで叩かれてきたので、3回にしようかな。回数増やしちゃおうかなとも考えています(笑)」とユーモアを絶やさない。ハンマーが鳴る回数も気になるところ。

 「企画を通して、どうしたら世の中がより良い方向に向かうことができるか」と模索し続けた16年。劇場としての在り方や可能性を今後も訴えて続けてほしいという願いが込められた沼尻竜典のラストスパートを見届けたい。

提供:びわ湖ホール

〈沼尻竜典オペラセレクション〉 NISSAY OPERA 2022 ロッシーニ作曲 オペラ《セビリアの理髪師》
2022.11/26(土)、11/27(日)各日14:00 びわ湖ホール


びわ湖ホール ジルヴェスター・コンサート 2022
2022.12/31(土)15:00 びわ湖ホール


〈オペラへの招待〉 林光作曲 オペラ《森は生きている》
2023.1/26(木)、1/27(金)、1/28(土)、1/29(日)各日14:00 びわ湖ホール(中)


〈プロデュースオペラ〉 ワーグナー作曲《ニュルンベルクのマイスタージンガー》(新制作)
2023.3/2(木)、3/5(日)各日13:00 びわ湖ホール


〈マーラー・シリーズ 沼尻竜典 × 京都市交響楽団〉 交響曲第6番「悲劇的」
2023.3/19(日)14:00 びわ湖ホール


びわ湖ホール
https://www.biwako-hall.or.jp