五嶋みどり(ヴァイオリン) デビュー40周年記念 ~ベートーヴェンとアイザック・スターンに捧ぐ~

孤高のヴァイオリニストMIDORIの40th anniversary

(c)Timothy Greenfield-Sanders

 ファン憧れのトップアーティストとして歩み続けて40年。音楽家のなかの音楽家、五嶋みどりが自らのアニヴァーサリーイヤーを寿ぐために、いや聴き手とパフォーミングアーツの喜びを分かち合うために、サントリーホールのステージに立つ。ピアノとヴァイオリンのためのソナタ、ピアノ・トリオ、ヴァイオリン・コンチェルトを携えて、相思相愛のホールに帰って来る。

 祝デビュー40周年。MIDORIは1982年暮れ、11歳のときにズービン・メータ指揮ニューヨーク・フィルハーモニックのジルヴェスターコンサートでパガニーニを弾き、檜舞台に躍り出た。レナード・バーンスタインを仲立ちとした1985年の広島平和コンサートでの大植英次指揮のモーツァルト「トルコ風」を懐かしく思い出す。またタングルウッド音楽祭でのバーンスタインとの共演は、20世紀の音楽史を彩る出来事となった。

 名匠との共演、名舞台、受賞歴は枚挙にいとまがない。しかし彼女は輝かしいキャリアを声高に語らない。語るとすれば、デビュー10周年の1992年にニューヨークと東京に創った非営利団体Midori & Friendsと認定NPO法人ミュージック・シェアリングを通じた社会貢献活動だろう。MIDORIほどエデュケーション、アウトリーチ活動に愛と情熱を注ぎ、音楽のメッセージを「シェア」してきたアーティストは、いない。優れた若手奏者の育成に尽力、嬉々として共演するとともに、恵まれない環境下の人々に手を差し伸べ、真摯な演奏を披露する。そして微笑む。

 11月、彼女の音楽にいつも寄り添ってきたサントリーホールでベートーヴェンの「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」全曲、ピアノ三重奏曲選、それにヴァイオリン協奏曲を披露する。二重奏ソナタのパートナーはフランスのジャン=イヴ・ティボーデで、CDリリースとも呼応する。

 MIDORIは2020年のベートーヴェン生誕250年、彼女の演奏家人生に手を差し伸べたアイザック・スターンの生誕100年を忘れなかった。コロナ禍で中止を余儀なくされたスペシャルステージ2020を「そのまま」にしてはいけない。彼女は信念の人である。

 キーワードはベートーヴェン、20世紀音楽界の匠スターン、聴き手、ホールへ感謝となろうが、MIDORIは近未来の音楽界にも想いを寄せる。

 最終日、「協奏曲の夕べ」のプログラム最後は、ベートーヴェンにオマージュを捧げたドイツ人作曲家デトレフ・グラナート(1960年ハンブルク出身)のヴァイオリン協奏曲第2番「不滅の恋人へ/An die Unsterbliche Geliebte/To the Immortal Beloved」(2019)の日本初演だ。

 タイトルからしてほほ緩むこのコンチェルトは、サントリーホール、ハンブルクを拠点とするNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団、英グラスゴーのロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団、それにサッシャ・ゲッツェルとともに躍進したボルサン・イスタンブール・フィルハーモニー管弦楽団の共同委嘱作品。MIDORIのために書かれた作品だ。曲はコロナ禍を乗り越え、昨年11月にエディンバラ、グラスゴー、12月にハンブルクでお披露目された。1812年に書かれたベートーヴェンのラヴレターから霊感を受けた作品で、スコアの上でもベートーヴェンの協奏曲が意識されているという。

 MIDORI曰く「信じられないほど美しく、非常に抒情的、そしてドラマと緊張感に満ちた作品です」。

 ティボーデとの二重奏ソナタ、アメリカのピアニスト、ジョナサン・ビス、フランスのチェリスト、アントワーヌ・レデルランとの三重奏、ライアン・バンクロフト指揮新日本フィルハーモニー交響楽団との協奏曲で、音楽の使徒MIDORIの今を満喫したいものである。
文:奥田佳道
(ぶらあぼ2022年11月号より)

「ソナタの夕べ」“Violin Sonata”
Ⅰ 2022.11/8(火) Ⅱ 11/9(水) Ⅲ 11/10(木)
「トリオの夕べ」“Piano Trio” 
11/11(金)
「協奏曲の夕べ」“Concerto” 
11/12(土)(完売)
各日19:00 サントリーホール
問:サントリーホールチケットセンター0570-55-0017
suntoryhall.pia.jp
※各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。