辻井のCDデビュー10周年記念ボックスからの分売。2020年に引退したアシュケナージとの今や貴重なコラボによるシドニーでのライブ録音である。辻井のソロは、粒立ちの良い音で実に美しく、なかでも第1楽章のカデンツァや第2楽章のニュアンス豊かな表現が聴きもの。アシュケナージとの連携も緊密で、美感と力感を併せ持った精妙な演奏が終始展開されている。曲を熟知したアシュケナージ率いるバックも、芳醇かつ堂々たる表現で曲の真価を表出。正攻法のアプローチの中で、辻井の妙技とベートーヴェン音楽の魅力を満喫できる好アルバムとなっている。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年11月号より)
【information】
CD『ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番/辻井伸行&アシュケナージ&シドニー響』
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番
辻井伸行(ピアノ)
ウラディーミル・アシュケナージ(指揮)
シドニー交響楽団
収録:2016年10月、シドニー(ライブ)
エイベックス・クラシックス
AVCL-84139 ¥2750(税込)