中木健二(チェロ)

キーワードは“カンタービレ”、楽聖とフランスの「隠れた名曲」を対比

(c)塩澤秀樹

 2005年ルトスワフスキ国際チェロ・コンクールの覇者で、10年から14年までフランス国立ボルドー・アキテーヌ管弦楽団の首席奏者を務め、現在はソロ、室内楽など多彩な活動を展開しているチェリストの中木健二。恩師であり親しい音楽仲間でもあるフランスのピアノの名手エリック・ル・サージュと、Hakuju Hallでデュオ・リサイタルを行う。

 「フランス作品というとラヴェルやドビュッシーが有名ですが、印象派の陰に隠れてしまい、忘れ去られた作品というのが数多く存在するのです。今回取り上げるヴィエルヌとルクーの『チェロとピアノのためのソナタ』もそうした作品のひとつ。ヴィエルヌはエリックが『いい曲があるよ』と薦めてくれたんです」

 ルイ・ヴィエルヌ(1870〜1937)はセザール・フランク(2022年は生誕200年)の弟子で、盲目のオルガニストとして知られ、パリ・ノートルダム寺院の首席オルガニストを務めた。

 「ヴィエルヌのソナタは時代的にワーグナーの影響を受けていて、とりわけ第2楽章が美しい。モティーフが独特で、転調が自在。曲の構成としては最後に第1楽章の主題に戻るのですが、その面がフランクを意識させます。けっして華美ではなく朴訥なピアノとの音の対話は、Hakuju Hallの響きに合うと思います」

 ギヨーム・ルクー(1870〜94)はフランク最後の弟子として知られるが、24歳で夭逝した。

 「ルクーもワーグナーに夢中でした。冒頭のモティーフは《トリスタンとイゾルデ》を思い起こさせます。そうした2曲の間にベートーヴェンのソナタ第3番を挟み込む形にしましたが、私はいまベートーヴェンのフィルターを通して他の作曲家を見るというプログラム構成をしていて、今回は第3番を加えて全体のキーワードが“カンタービレ”になるように考えました。ベートーヴェンのソナタ第3番は、長く複雑で新しいことに挑戦したいという気概を感じさせます。3曲とも冒頭がチェロの独奏で奏でられるのは、ヴィエルヌとルクーが二人ともベートーヴェンの作品から影響を受けていたからに違いありません。やはり、これ以外は考えられない組み合わせです(笑)」

 中木はフランスで10年半暮らし、ボルドーでは特にワインを愛した。それゆえ、リサイタルのプログラムは味わいよく深々と、心身を癒し、心に響く構成に留意している。ル・サージュも自然体でおだやかなピアニズムの持ち主で、上質な音楽を愛し、美食を好むタイプ。ふたりの音の会話はフランスの芳醇で熟成したワインを連想させる。中木健二が「隠れた名曲」を世に発信したいと語るヴィエルヌとルクー。ぜひナマで真意を味わいたい。
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2022年9月号より)

中木健二(チェロ) & エリック・ル・サージュ(ピアノ)
チェロとピアノが響き合う 芳醇なオールデュオプログラム
2022.10/15(土)15:00 Hakuju Hall
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700 
https://hakujuhall.jp