大野和士(指揮) 東京都交響楽団

大野が魅せる、こだわりのヤナーチェク

 東京都交響楽団の秋シーズンは、音楽監督・大野和士が指揮する定期演奏会B、Cシリーズで始まる。注目はBシリーズのヤナーチェク「グラゴル・ミサ」(1927)だ。大野にとっては2019年、ロンドン交響楽団へのデビューを飾った記念すべき作品でもある。直前にキャンセルしたガーディナーに代わって急遽指揮台に上るというセンセーショナルな成功だった。

 「グラゴル」というのは、9世紀、キリスト教の布教目的のために、聖書をスラヴ語に翻訳すべく人為的に作られたアルファベット「グラゴル文字」のこと。キリル文字の元になったとされる。「グラゴル・ミサ」は、この文字を用いた、古代教会スラヴ語のミサ通常文をテクストとしている。日本での上演はけっして多くないが、都響では2010年にヤクブ・フルシャとの名演があった。今回は作曲家の初期構想を復元したスコアを用いるという大野らしい選択。

 ソロも合唱も、宗教曲というよりはオラトリオ的にドラマティックに歌われて聴きごたえ十分。もちろんヤナーチェクらしくモラヴィアの民族色は濃厚だ。後奏に置かれたオルガン・ソロ楽章や、(初稿版では)両端で作品全体を挟むファンファーレ楽章(イントラーダ)の金管大活躍など、声楽以外の聴きどころも外せないポイント。出演は、ソプラノ小林厚子、アルト山下裕賀、テノール福井敬、バス妻屋秀和、オルガン大木麻理、新国立劇場合唱団。
文:宮本明
(ぶらあぼ2022年8月号より)

第958回 定期演奏会Bシリーズ 
2022.9/9(金)19:00 サントリーホール
問:都響ガイド0570-056-057 
https://www.tmso.or.jp