樫本大進と沖澤のどかが語る、ベルリン・フィルとキリル・ペトレンコ

デジタル・コンサートホールの新シーズン開幕前・早割キャンペーン実施中

 キリル・ペトレンコが首席指揮者に就任して3シーズンが経過したベルリン・フィルは、まもなく8月26日に2022/23年シーズン開幕を迎える。
 開幕を前に、この6月末、第1コンサートマスターの樫本大進と、カラヤン・アカデミー指揮科奨学生(当時)でペトレンコのアシスタントを務めていた沖澤のどかが、インタビューに応じ、ペトレンコとの共同作業の様子から新シーズンへの展望などについて語った内容を、ここに紹介する。

取材協力:Berliner Philharmoniker

キリル・ペトレンコ&ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
© Monika Rittershaus

INTERVIEW
樫本大進(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 第1コンサートマスター)
&沖澤のどか(元カラヤン・アカデミー指揮科奨学生)

Daishin Kashimoto ©Berlin Phil Media GmbH

この2年以上、ベルリン・フィルもコロナ禍で大きな影響を受けましたが、2021/22年シーズンは年間を通してほぼ予定通り公演が開催されました。どういう気持ちでこのシーズンを終えられましたか?

樫本「僕ら音楽家は単に作品の勉強をして演奏するだけではなくて、聴いていただくお客さんがいて初めて生まれる雰囲気や空気というものがあります。それができない期間は、悲しいだけでなく、空っぽの部屋で演奏しているような感覚でした。お客さんがようやく入って、最近は笑顔や感動している表情がこちらからも見えるようになりました。弾いている自分たちの気合も、会場の空気もやはり変わりますし、戻ってきて本当にありがたいです」

沖澤「私のアシスタントのポジションはコロナ禍の中で始まったので、お客さんもいない中、団員同士もなかなかお話できず、舞台裏でもマスクをしないといけない状況でした。今シーズンはお客さんがたくさん入って、団員さんとも舞台裏で少し交流できるようになり、音楽というのは音だけでなく、周りの影響をすごく受けていると感じます。舞台も生き生きしてきますし、お客さんの咳とか飴のカラの音さえも少し愛しいというか懐かしいというか……。嬉しい気持ちでこのシーズンを終えられました」

Nodoka Okisawa ©Berlin Phil Media GmbH

キリル・ペトレンコが首席指揮者に就任して3シーズンが経過しました。現在の共同作業の様子を聞かせてください。

樫本「ペトレンコとの共同作業は、常に進化していると思います。リハーサルは細かくて厳しいですが、内容は深く分厚い。毎週ゼロから始まるような感覚でしょうか。彼が指揮するときはもちろんですが、他の指揮者が客演するときも、このオケの色が少しずつ変わっているのを感じています」

沖澤「ペトレンコさんとの仕事は毎分、毎秒が大事。とにかく時間を無駄にしません。とりわけ印象に残っているのは、歌手との仕事ぶりです。私はバーデン=バーデン・イースター音楽祭でチャイコフスキーのオペラ《スペードの女王》のアシスタントを務めたのですが、完璧主義で知られる彼がいかに寛容で、忍耐強く、あたたかみのある人であるかを特に歌手との仕事ぶりを見て感じました。オーケストラ、合唱、児童合唱、ソリストと仕事をするとき、それぞれで話す内容や要求することを細やかに変えていました。それまでは完璧を目指す人というイメージでしたが、あの寛容さが共存できるのかと。どちらも持ち合わせているところに懐の深さを感じますね」

Daishin Kashimoto  ©Berlin Phil Media GmbH

2021/22年シーズンで特に印象に残っている公演は?

樫本「ペトレンコとオペラを共演するのは僕らにとって特別な瞬間ですし、彼にとっても一番アットホームな場だと思います。今シーズンは舞台形式のオペラをバーデン=バーデンで初めて実現できました。すごく楽しかったですし、良い経験になりました」

沖澤「印象に残っている公演は数えきれないですが、ペトレンコさんがものすごい情熱を注いだオペラ《スペードの女王》は忘れ難いです。彼のドラマトゥルギーへの鋭い勘とオペラ指揮者としての経験が音楽にそのまま反映されていて、ベルリンの演奏会形式上演では演出がなかったにも関わらず、とてもドラマティックな演奏でした。単に指揮者としてだけでなく、語り手としてのすごさを間近で見ることができ、貴重な経験になりました」

Nodoka Okisawa ©Berlin Phil Media GmbH

8月26日にベルリン・フィルの2022/23年シーズンが開幕します。新シーズンへの期待を聞かせてください。

樫本「まずはオープニング公演でのペトレンコ指揮によるマーラーの交響曲第7番が楽しみ。彼のマーラーは素晴らしいです。濃い、厳しいリハーサルがその前に待っていますが、それを乗り越えたらきっと何か特別な新しい発見があると思います。ペトレンコとの初めてのアメリカ・ツアーでこの曲を演奏するのも大きなハイライトになるでしょう。バーデン=バーデン・イースター音楽祭で上演するR.シュトラウスのオペラ《影のない女》を含め、いろいろと面白いものが待っています」

沖澤「私はどうしてもペトレンコさん指揮のプログラムに注目してしまうのですが、まずはやはりマーラー『第7』。ほかにメンデルスゾーンのオラトリオ《エリヤ》もとても興味がありますし、意外なところではドビュッシーの交響詩《海》。ペトレンコさんはあまりドビュッシーを振る印象がなかったので楽しみです。バーデン=バーデンでの《影のない女》はできれば現地で聴きたいですし、デジタル・コンサートホールでも必ず観るつもりです」


 なお、新シーズンのほとんどの公演は、映像配信サービス「デジタル・コンサートホール Digital Concert Hall」で配信され、日本からも視聴できる予定だ。マクシム・エメリャニチェフ、サントゥ=マティアス・ロウヴァリ、クラウス・マケラといった勢いのある若手指揮者がキャスティングされているのも2022/23年シーズンの注目ポイント。
 現在、開幕日までの期間限定で、12ヶ月チケットを10%割引で購入できる早割キャンペーンが実施されている。4K UHD画質、ハイレゾ音声、イマーシブオーディオにも対応した高品質の映像がテレビ、スマートフォン、パソコン、タブレットで視聴可能。コンサート映像だけでなく、ドキュメンタリーやインタビューなどのコンテンツも楽しめ、オーケストラ・ファンには堪えられない配信内容となっている。

ベルリン・フィルの映像配信「デジタル・コンサートホール」
8月26日までの期間限定 12ヶ月チケット10%割引
https://www.digitalconcerthall.com/ja

シーズン開幕コンサート
現地時間8/26(金)19:00(日本時間8/27 午前2:00)
キリル・ペトレンコ(指揮)
マーラー:交響曲第7番「夜の歌」
https://www.digitalconcerthall.com/ja/concert/54287