藤木大地(カウンターテナー)

新作初演を中心とした唯一無二のステージ

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 「Encounter-tenor 2022 〜カウンターテナーとの出逢い〜」と題された藤木大地のリサイタルが浜離宮朝日ホールにて開催される。木下牧子への委嘱新作を軸に、シューベルト〈夜と夢〉、ドビュッシー〈星の夜〉、ハウエルズ〈ダヴィデ王〉など、幅広い時代と地域の作品が並ぶ、藤木らしいプログラミングの妙が光る公演だ。

 「世界初演となる木下さんの曲はプログラムの真ん中あたりに置きたいので、古い時代からはじまって、現代へと近づいていって、また古い時代へと戻っていくような流れのプログラムを考えました。バラバラに並べるより、時代を追って並べた方がオーディエンスの皆さんの心が自然についていけるのではと」

 共演は大学時代からの盟友、ピアニストの松本和将。

 「松本さんはベルリンで学んだ人で、ドイツ語のニュアンスをよくわかってくれるので、シューベルトはぜひ入れたいと思いました。僕はドイツ語やイタリア語は話しますがフランス語は話さないので、そういう意味ではドビュッシーは挑戦かもしれません。イギリスのハウエルズを入れたのは、ちょうど10年前に日本音楽コンクールの本選の1曲目で歌った曲だからです。リサイタルのプログラムを準備するときにいつも気づくのは、どんな言語でも、自分が共感できない曲は歌えないということ。自分が詩の世界に入り込み、当事者として表現できて、オーディエンスの皆さんにも自分のこととして受け止めていただくことが、僕にとっては歌を歌うことなのだと思います」

 メインとなる木下牧子への委嘱新作にも期待が高まる。

 「中学生時代、クラスの合唱で〈もえる緑をこころに〉を指揮したときから、木下さんは僕のなかで偉大な作曲家でした。演奏活動をはじめた頃、〈夢みたものは〉を歌っている映像を、バリトンの三原剛さんが木下さんに送ってくださったことからメールをいただくようになって。僕が企画した歌劇《400歳のカストラート》やアルバムにも作品を入れさせていただきました。親しみやすい歌からコンテンポラリーまで、木下さんの作品はじつに多岐にわたっていますが、自分がレパートリーとしてずっと歌ってきた木下作品と同じように、アンコールピースになるような曲を書いてくださいとお願いしました。今回のリサイタルで独唱版を初演したあと、今後は合唱曲にして、かつての自分のような若い人たちにも歌ってもらえたらと願っています」

 西村朗〈木立をめぐる不思議〉、 加藤昌則〈てがみ〉といった、過去の委嘱作品もプログラムに並んでいる。

 「今、同じ時代を生きている作曲家と創作活動をともにし、彼らとコミュニケーションすることは、僕にとって非常に大切です。モーツァルトの時代にもフォーレの時代にも、必ずその作品を初演した歌手が存在するわけで、『もし僕がこの曲の初演者だったら、作曲家はなんと言ってくれるだろう?』『ここはどういうつもりで書いたのか尋ねたら、どう答えてくれるかな?』などと想像を膨らませながら歌っています。昔の作曲家の作品も、今はじめて歌われるような気持ちで取り組む。そういった姿勢を学ぶことができたのは、今を生きている作曲家たちとのコミュニケーションのおかげですね」

 まるで藤木からの手紙のようなリサイタル、心に残る夏の日になることだろう。
取材・文:原典子
(ぶらあぼ2022年7月号より)

藤木大地リサイタル Encounter-tenor 2022 ~カウンターテナーとの出逢い~
2022.8/31(水)13:30 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/