支倉常長の人間像に迫る“和製オペラ”の傑作
三善晃唯一のオペラ《遠い帆》(1999年/脚本:高橋睦郎)が14年ぶりに東京で上演される。仙台市の委嘱作品で、伊達政宗が支倉常長らをスペインに送った1613年の「慶長遣欧使節」の史実に基づく、支倉の心理描写を軸にした物語。東京公演は昨年12月の仙台公演と同プロダクションで、指揮・佐藤正浩、演出・岩田達宗。主人公・支倉を演じるのがバリトンの小森輝彦だ。
「三善作品を歌うのは初めてでしたが、シンプルに凝縮されているので、音の意味がわかるまで最初はかなり苦しみましたね。役作りでは、演出の岩田さんから、遠藤周作の『侍』を読んでくれと言われました。岩田さんは、400年前に太平洋・大西洋を渡った英雄としての支倉ではなく、一介の侍が、組織の中で突き付けられた難題を実に侍らしく受け止めざるをえなかった姿を描きたいのだと思います」
『侍』は《遠い帆》と直接の関係はないが、題材が同じ小説。オペラの背景を知る予習にも適しているかもしれない。
「岩田さんの演出は細かい仕掛けがいっぱいあるので、予習してそれを理解できれば、より面白いとは思います。でも、舞台美術や照明も含めて非常に色彩的なインパクトも考えられた舞台なので、予備知識なしでも十分に楽しめるはずです」
一般的なオペラのイメージと比べ、時間的にも役割的にも、合唱の比重が大きい。
「全キャストの中で、間違いなく合唱が一番重要です。古代ギリシャ劇のコロスのようなさまざまな役割を担っています。今回の合唱は公募オーディションで選ばれた人たち。それだけに熱意がすごいですし、技術的にも、アマチュアと言えどもとてもレベルが高い。しかも物語の地元の人たちですから登場人物への思い入れも強くて、たとえば郷土の英雄である伊達政宗の扱いに異論があると、演出家に直談判するぐらい。まるで切ったら血が出そうな緊張感。素晴らしいですよね。僕らもその空気の中で、その土地の実在の人間を演じるのだから、生半可な覚悟ではできません。もともとヨーロッパでも、オペラというのはこのように時代を超えて共有できる文化に基づいたものだったわけです。その意味で、外国のオペラを観るよりもずっと楽しめると思いますね」
歌詞はもちろん日本語だが、今回は日本語字幕付きで、よりわかりやすい。
「僕自身、現代オペラがレパートリーの中心というわけではありません。わかりやすく親しみやすい舞台をお届けすることを第一に考えております。そういう意味でもこの作品はその意に適っていると思います。ぜひご覧いただければと思います」
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年7月号から)
三善晃:オペラ《遠い帆》
8/23(土)・8/24(日)15:00 新国立劇場(中)
問:新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999
http://www.toiho.info