サントリー芸術財団 サマーフェスティバル2014

現代作品と古代楽器との出会い

 夏の終わりの音楽シーンに欠かせなくなった現代音楽祭、サントリー芸術財団サマーフェスティバル。昨年から一人のプロデューサーが、そのキャリアと問題意識をプログラミングにぶつける〈ザ・プロデューサー・シリーズ〉が始まった。2年目は国立劇場の演出室長を務めた木戸敏郎が登場する。だが、人選に首をかしげる向きもあろう。日本伝統芸能を動かしてきた人物が現代音楽とどう関わるのか。実はここに今回のミソがある。
 木戸は雅楽の世界に現代音楽の試みを持ち込んだ仕掛け人である。武満や黛らとそうした方向を模索していた木戸にインスピレーションを与えたのは、1970年の大阪万博で半年間にわたり自作の壮大な上演を行ったカールハインツ・シュトックハウゼンであった。万博の西ドイツ館での体験に衝撃を受けた木戸は、シュトックハウゼンに作品を委嘱。そこで生まれた「歴年」は残念なことに日本国内では酷評を浴びるが、その後、シュトックハウゼンは「歴年」のアイディアを拡大して、上演に29時間を要する畢生の大作、連作オペラ《リヒト》に取り掛かる。今回、木戸は雅楽奏者のみからなる当初の「歴年」(8/28)と、そこに歌手を加え《リヒト》の一部として用いられた洋楽ヴァージョン(8/30)を連続上演し、さらに一柳慧、三輪眞弘の新作を併せて初演するという、フェスティバルならではの雄大な企画をうちあげている。
 木戸のもう一つの取り組みに古代楽器の復元があるが、8月22日には正倉院やカイロ博物館、ルーヴルを渡り歩き研究・復元してきた始原の楽器を用いたコンサートが行われる。ここでは一柳、三輪、石井眞木、ルー・ハリソン、野平一郎らの作品に加えて、川島素晴の新曲も初演される。古代と現代、洋の東西を自在に飛び越える木戸のダイナミックな想像力がコンサートとして具現化される。
 また、国際作曲委嘱シリーズのテーマ作曲家にはフランスのパスカル・デュサパンが取り上げられる。緻密な作風で知られる大家だが、8月21日は委嘱新曲(風に耳をすませば ハインリヒ・フォン・クライスト原作のオペラ《ペンテジレーア》からの3つの場面)の世界初演のほかに、若くして亡くなったクリストフ・ベルトランの作品「マナ」にも注目したい。25日にはデュサパンの二つの弦楽四重奏曲が取り上げられるが、両日ともに現代音楽の最前線をひた走るアルディッティ弦楽四重奏団が大活躍する。
 8月31日には芥川也寸志にちなんだ芥川作曲賞選考演奏会が予定されており、一昨年の受賞者・新井健歩の受賞記念委嘱作品のほか、3つの候補作が上演される。
取材・文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年8月号から)

ザ・プロデューサー・シリーズ 木戸敏郎がひらく
始原楽器の進行形 8/22(金)19:00*
20世紀の伝言 8/28(木)19:00
21世紀の応答 8/30(土)18:00

テーマ作曲家〈パスカル・デュサパン〉 
管弦楽 8/21(木)19:00
室内楽 8/25(月)19:00*

第24回芥川作曲賞選考演奏会 8/31(日)15:00

会場:サントリーホール *のみサントリーホール ブルーローズ(小)
問:東京コンサーツ03-3226-9755 
http://suntory.jp/summer