INTERVIEW 戸田弥生(ヴァイオリン) 磯村和英(ヴィオラ)

取材・文:柴田克彦

実力派ソリストが室内楽のレジェンドを迎えて挑む
注目の弦楽四重奏

 実力派ヴァイオリニスト・戸田弥生が、「東京・春・音楽祭2022」の「戸田弥生(ヴァイオリン)の室内楽」と題した公演で、元・東京クヮルテットの池田菊衛(ヴァイオリン)、同じく磯村和英(ヴィオラ)、気鋭の横坂源(チェロ)とともに弦楽四重奏の名曲を披露する。「人気ソリスト+斯界の重鎮による弦楽四重奏」というこの興味深い公演に向けて、戸田および磯村両氏に話を聞いた。

左:戸田弥生、右:磯村和英
写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会

 戸田弥生は、1993年エリザベート王妃国際音楽コンクール優勝以来、内外で活躍を続ける第一線のソリスト。現在は「バッハの無伴奏ソナタ&パルティータの2度目の録音を終え、リリースの準備をしている」と話す。磯村和英は、世界に名を成した東京クヮルテットで、1969~2013年の44年間、すなわち全活動期間ヴィオラ奏者を務めたレジェンド。近年は「桐朋学園とサントリーホール室内楽アカデミーで指導を行い、時折古い仲間等と演奏している」という。ちなみに磯村は「東京・春・音楽祭」には初の出演となる。
 当音楽祭に数回出演している戸田は、「斬新な音楽祭。演奏家の気持ちを受け入れてくれて、やりたいことができる点が素晴らしい」と語る。今回はその「やりたいこと」、すなわち彼女にとって自身のコンサートでは初の「弦楽四重奏」を実現させた。

戸田弥生(c)Akira Muto

戸田「東京クヮルテットの磯村先生や池田先生は、桐朋学園の大先輩であり、日本の演奏家が今ほど活躍していない時代に多大な功績を残されたスーパースター。ご一緒させていただくことを長い間願っていました」
 そこで、直接の交流はなかった彼らに「ダメ元でお声をかけて」快諾を得た。
 弦楽四重奏は彼女の悲願でもある。

戸田「弦楽四重奏曲には作曲家の真髄が詰まった作品がたくさんあります。真剣かつ多様な表情が織り込まれたその真髄に触れないまま演奏家人生を終えるのは、あまりにも寂しいとずっと思っていました」
磯村「そう、ベートーヴェンが唯一生涯の最後まで作曲したように、どの作曲家も自分が納得いくまで創作し、本質的な何かを凝縮した弦楽四重奏曲を書いています。それを思うとカルテット弾きとしては堪らない気持ちになりますね」 
 だが弦楽四重奏は「上手い人が4人集まってできるようなものではない」、「戸田さんはそこがわかっているから、これまでやられていなかったのでしょう。それは本当に立派です」と磯村は言う。ゆえに今回あえて同ジャンルに挑む戸田も、磯村と池田に声をかけたのだろうし、本公演における彼らの存在は当然大きい。

磯村和英


 レジェンドは弦楽四重奏の極意をこう語る。
磯村「弦楽四重奏は質量共に名曲が豊富です。そしてそうした傑作を演奏するならば、曲を利用して自分の良い所を見せようとせず、曲の本質を自分たちなりに抉り、作品を通して4人の個性をグループの音楽的個性としてまとめていくこと。それが理想であり、自分たちもそこを目指してきました。またソロの場合は、演奏者の巧みな技術や個性を聴衆に向かって発信する意味合いが強いでしょうが、弦楽四重奏の場合は、作品を通して4人が対話し、そこに聴衆を招き入れるような形が理想形。聴衆の方も4人がいかなる音楽的コミュニケーションをとり、どんな対話を交わしているかを感じてもらいたいと思います」

戸田弥生の室内楽(2019年公演より)(c)ヒダキトモコ

シリアスな世界観を共有する2つの大作

 今回の演目は、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第8番とシューベルトの「死と乙女」。共にシリアスな本格作と言っていい。
戸田「どちらも精神が奮い立つほど大好きな曲。ショスタコーヴィチの作品は、音楽的な抑圧も受けて命の危険さえあるという、生と死の狭間の厳しさや緊張感が音に表れています」
磯村「8番は特にそうですね。この曲は『ファシズムと戦争の犠牲者の思い出に捧げる』とのメッセージが付されていますし、自作を引用するなど自叙伝的な作品でもある。作曲者の思いがこもった大変な曲です」
戸田「また、1人で海外に行った時にピアノ・ソナタなどを聴いて、シューベルトの器楽作品に関心を抱いていました。特に弦楽四重奏曲の中では終盤に書かれた『死と乙女』は、死と隣り合わせにありながらも、純粋な音楽的感興に溢れています。これは凄い作品であり、語り継がれる遺産として次の世代に渡していくべきだと思いました」
 2曲共に合奏用に編曲されている点も特徴的だ。
磯村「それはたまたまではないと思いますよ。いずれも典型的な弦楽四重奏曲とは違って、オーケストラで演奏する意味があるスケールの大きさを有しています」
 共に本公演への期待は大きい。
戸田「磯村さんたちと同じステージに立たせていただくだけでも勉強になりますし、どんな刺激をもらえるかとても楽しみです」
磯村「ソリストの方がどんなアプローチをされるか楽しみにしていますし、戸田さんも我々を大いに刺激してほしいですね」

左:池田菊衛(c)池上直哉、右:横坂源(c)Takashi Okamoto


 戸田が何度か共演した「知的なアイディアと情熱的な面を併せ持つ素晴らしい奏者」横坂源を含めた多世代演奏家のコラボは興味津々だし、磯村がフルの弦楽四重奏公演で弾くのは「2013年の東京クヮルテットの最終公演以来」とのこと。稀有の触発が生まれるこの弦楽四重奏への注目度はすこぶる高い。

【Information】
戸田弥生(ヴァイオリン)の室内楽
池田菊衛(ヴァイオリン)、磯村和英(ヴィオラ)、横坂源(チェロ)を迎えて
2022.3/27(日)15:00 東京文化会館 小ホール
●出演

ヴァイオリン:戸田弥生、池田菊衛
ヴィオラ:磯村和英
チェロ:横坂源
●曲目
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 第8番 ハ短調 op.110
シューベルト:弦楽四重奏曲 第14番 ニ短調《死と乙女》D810
●料金(税込)
S¥5,500 A¥4,000
U-25¥1,500
ライブ・ストリーミング配信¥1,100

【来場チケット販売窓口】
●東京・春・音楽祭オンライン・チケットサービス(web。要会員登録(無料))
https://www.tokyo-harusai.com/ticket_general/
●東京文化会館チケットサービス(電話・窓口)
TEL:03-5685-0650(オペレーター)