鈴木大介(ギター)

SPSが自主企画を全国のホールへ、最初はKAJIMOTOと組んだパガニーニ

(c)Naoya Ikegami

 サントリー系列で文化芸術にかかわる分野を担う会社、サントリーパブリシティサービス(SPS)が全国の文化施設に向け、独自コンテンツの提供を開始する。SPSは音楽ホール、美術館など全国20ヵ所の文化施設の管理・運営を受託している。今回、音楽事務所と組み共同企画の態勢を整えた。第1号のパートナーはKAJIMOTO。「テーマ性を持たせた方が良いのではないか」という梶本眞秀社長のアドバイスもあり、作曲家の記念年を特集する「アニバーサリー・イヤーシリーズ」を立ち上げた。2022年のVol.1では生誕240年のニコロ・パガニーニ(1782-1840)に焦点を当て、プログラム・コーディネーターを務めるギターの鈴木大介を中心に、ヴァイオリンの辻彩奈と、ゲストに歌手が一名加わる編成。3月6日にはソプラノの天羽明惠が、11月5日はカウンターテナーの藤木大地が出演を予定している。企画の要となる鈴木に、オンラインで話を聞いた。

ヴァイオリンとギターの二刀流!?

 パガニーニといえば「悪魔に魂を売り渡した」と恐れられた超絶技巧のヴァイオリニスト、作曲家のイメージが強い。鈴木によれば「1828年ころから自作のヴァイオリン協奏曲を携え、ヨーロッパ制覇を目指す前の時代、ヴァイオリンとギターのための美しい旋律の作品を数多く書いていました」。

 「父親がマンドリンを弾き、ロッシーニなど当時流行のオペラの旋律も弾いて楽しんでいたようです。ナポレオンが1800年の第二次イタリア遠征でアルプスの要衝を越えて勝利を収めた時期、ニコロは“引きこもり”、女性にギターを教えていました。同時にギターのソロ曲、ヴァイオリンとの二重奏曲の作曲を続け、次第に高度な書き方を身につけていきます。演奏活動を再開した当初はヴァイオリン、ギターの二刀流を考えていましたが、より才能に恵まれたヴァイオリンへと、次第に集中していったのが真相です」

 パガニーニがギター曲を書いた1800年代初頭は、楽器の構造が複弦から「6本の単弦」に集約され、急速に普及した時期と重なる。

 「地域ごとにギターの仕様の異なる混乱期が収まり、ドイツを除くヨーロッパ一円で大流行したのです。1830年くらいのウィーンの音楽家は当然のように、ギターを弾きました」

 パガニーニのギター曲が本格的に再評価され、演奏会の正式レパートリーにエントリーしたのは、生誕200年の1982年に作品の目録が完成して以降という。目録を通じてギター曲の全貌、作曲様式の変遷を追跡することが可能になった。

 「ソナタは大きく分けて2系統。ヴァイオリンとギターが対等な協奏的ソナタと、ギターのためのグランド(大)ソナタにヴァイオリンのオブリガートが付くものがあります。後者は余りにもヴァイオリニストに申し訳ないので、ギターがヴァイオリン・パートの音も入れ、1人で弾くのが一般的です。近年、最も注目されているのは1803〜1823年の20年間に書かれた「37のソナタ集」。ほとんどがメヌエット、自由な形式の2楽章構成で5分以内、演奏家が自由に装飾を加える余地もあって、とても魅力的な作品群といえます」

パガニーニの世界でギター、ヴァイオリン、歌声が出会う

 最後に共演者3人へのコメントを求めた。

 「辻彩奈さんは、どのような曲に対してもニュートラルなアプローチをされます。天上の調べのように流れていくイタリアのモーツァルトのような旋律に対しても、きっと素敵なヴァイオリンを奏でてくださるでしょう。3月6日にご出演いただく天羽さんはもう、マスターピース(傑作)からレアものまで、ありとあらゆる作品の本質を即座に理解する奇跡の名歌手です。他公演で共演する藤木さんは、カウンターテナー歌手として活躍が久しいですが、打ち合わせなどで口ずさむ時の地声の歌さえも音楽性豊かです。色々な歌に対し柔軟に対処し魅力を引き出していきます。パガニーニを舞台に、皆さんとの共演を心から楽しみにしています」
取材・文:池田卓夫
(ぶらあぼ2022年2月号より)

アニバーサリー・イヤー2022
生誕240年 ニコロ・パガニーニの世界 ~ヴァイオリン・ギター・歌による~
2022.3/6(日)14:00 サントリホール ブルーローズ(小)
問:カジモト・イープラス050-3185-6728 
https://www.kajimotomusic.com

他公演
2022.11/5(土) 枚方市総合文化芸術センター 関西医大 小ホール(072-845-4910)