上村文乃(チェロ)と田原綾子(ヴィオラ)がホテルオークラ音楽賞を受賞

 第23回 ホテルオークラ音楽賞の受賞者が発表され、チェロの上村文乃とヴィオラの田原綾子に決定した。同賞は、ホテル開業35周年の1996年に創設。将来を嘱望される新進の音楽家を支援・育成し、日本の芸術文化発展を目的とする奨励制度。堤剛や大友直人らが選考委員を務め、受賞者の2組には、奨励金および副賞が贈呈される。

上村文乃

 上村は、桐朋学園大学ソリストディプロマコースを卒業後、ハンブルグ音楽演劇大学およびバーゼル音楽院に留学。チェロを毛利伯郎、堤剛らに、室内楽を原田幸一郎、徳永二男、クァルテット・エクセルシオに師事。2007年、第5回東京音楽コンクール弦楽部門第2位に続き、2011年には第80回日本音楽コンクールでも第2位に入賞している。リサイタルやオーケストラとの共演のほか、バッハ・コレギウム・ジャパンのメンバーとしても活躍中。

田原綾子 (c) Hisashi Morifuji

 田原は、桐朋学園大学音楽学部を卒業後、パリ・エコールノルマル音楽院にてブルーノ・パスキエ、デトモルト音楽大学にてファイト・ヘルテンシュタインに師事。2013年、第11回東京音楽コンクールで優勝。読響、東響、東京フィル、都響などと共演するほか、エール弦楽四重奏団、ラ・ルーチェ弦楽八重奏団のメンバーとしても活動するなど活躍の幅を広げている。

 授賞式および受賞記念演奏会は、3月22日、同ホテルで行われる予定。
 各受賞者の選考理由は以下のとおり。

選評

上村文乃(チェロ)
チェロというと通常はモダン・チェロを指すが、これは17~18世紀のバロック・チェロと仕様、構造も弓も、そして奏法もまったく異なる。その両方を自由にこなせるチェリストは数が限られるが、上村文乃さんはそうした二刀流の名手である。モダン・チェロを弾いては伸びやかでダイナミックなスケール感の中に濃やかなカンタービレを聴かせ、バロック・チェロにおいては古楽にふさわしい言葉を語るような奏法を生かすというように、彼女の表現力の豊かさには目を見張るものがある。ソリストとしてのめざましい活躍は勿論のこと、室内楽やアンサンブルにも力を入れ、特に最近は古楽器のオーケストラのメンバーとしても重要な存在となるなど、その活動の幅の広さも注目されよう。彼女のこうした懐の深さは今後ますます音楽家としての彼女を大きく成熟させていくに違いない。稀にみる大器として、今後彼女がどのような活動を展開してくれるのか楽しみである。

田原綾子(ヴィオラ)
ヴィオラという楽器はどこか落ち着いた感じの音色を特色とし、またアンサンブルではふつうは内声を受け持つこともあって、とかく地味な楽器と思われがちだが、実際はとても豊かな表現力を備えた楽器である。田原綾子さんはまさにヴィオラの持つそうした様々な表現力を引き出すことができる逸材である。音色の微妙な変化や、骨太の力強さからデリケートな美しさまでの多様な表情など、ヴィオラの美質を十二分に生かした彼女の演奏からは、この楽器に秘められた可能性を様々な角度から追求しようという強い意志のようなものが伝わってくる。アンサンブル奏者としても優れたセンスを示し、曲におけるヴィオラの果たす役割を的確に捉えながら共演者と一体となってアンサンブルを形作っていこうとする姿勢は高く評価される。今後ソリストおよびアンサンブル奏者の両面での一層の活躍を通して、日本を代表するヴィオラ奏者として大成することを期待したい。

ホテルオークラ音楽賞
https://theokuratokyo.jp/letter/news/kinen-2022_3/