北とぴあ国際音楽祭2021
寺神戸亮が語るオペラ《アナクレオン》の魅力

取材・文:岸純信(オペラ研究家)

 この12月、北とぴあ国際音楽祭が取り上げるのは、18世紀のラモーの晩年期の名作で、50分にも満たない一幕もののオペラ《アナクレオン》(1757)。古代ギリシャの詩人で恋も酒も好むアナクレオンが、バッカスの巫女と愛の神の板挟みになるが、最後は「酒の神は愛を否定せず、愛の神は酒を赦す」と人生を謳歌して幕となる。この人間愛溢れる小品オペラを、演奏集団レ・ボレアードを率いる指揮者、寺神戸亮が詳しくご紹介。

寺神戸亮(c)Tadahiko Nagata

 「ラモーの《アナクレオン》は、実は二つあります。一般的に知名度が高いのは、今回上演する1757年初演の《アナクレオン》ⅱですが、その前に、1754年発表の《アナクレオン》ⅰというオペラもあって…同じ題名でも音楽も台本も全然違います。その辺りは、ぜひ公演にお出でいただいて…」

 そう、詳しくはプログラム内の解説をご覧いただければ。それでは、《アナクレオン》1757年版の特色について。

 「ドラマにそれほど起伏があるわけではないのですが、コンパクトな造りの中に、いろいろな要素が詰まっています。中でも、主人公が酔っ払う〈眠りの場〉は、ヴィヴァルディの《四季》の〈秋〉を思わせる、静かで神秘的な曲調です。また、ダンスもあちこちにちりばめられているので、バロック・ダンスのピエール=フランソワ・ドレさんと松本更紗さんにご出演願います」

左:ピエール=フランソワ・ドレ 右:松本更紗

 舞曲もサラバンド、パスピエ、ジーグと多彩、〈眠りの場〉に続くのはまったく正反対の〈雷雨の場〉と、短い中に多種多彩な曲が詰め込まれている。

 「様式的にはアクト・ド・バレ(1幕立てのバレエ入りオペラ)であり、主人公がこの頃のフランスオペラの主役にお決まりのハイ・テナー、オート・コントルではなく、珍しくバリトンなんですね。実は、北とぴあにも何度も出演頂いた与那城敬さんが、この詩人役にぴったりなんですよ。与那城さんは以前、同じラモーの《プラテー》でフランス語も含めて素晴らしいニュアンスで表現してくださったので、今回も期待しています」。

 一方、対立する神と巫女の2人は女声が担当。

 「パリ在住で、広い音域を持つメゾソプラノの湯川亜也子さんが愛の神です。男の子の格好をするアムールの役もボーイッシュにこなされるでしょう。また、バッカスの巫女役はソプラノの佐藤裕希恵さん。バロックものに集中的に出演され、当時の音楽のスタイルも非常によくご存じの方です」。

左より:与那城敬(c)Hiromi NAGATOMO、湯川亜也子、佐藤裕希恵(c)Asami Nakano、波多野睦美(c)HAL KUZUYA

 このほか、コーラス内でソリスト的に動くテノールの役もあるなど、ラモーの工夫は実に細かい。一方、オーケストレーションはどのようなもの?

 「まずはフルートが非常によく使われます。18世紀のフランスで、管弦楽の主役はどちらかと言えばオーボエですが、《アナクレオン》ではフルートの出番が多く、オーボエがお休みのところがたくさんあります。当時のオーケストラではどうも、フルートとオーボエを持ち替えで一人の奏者が吹いたケースも結構あるようなんです。ただ、この《アナクレオン》では、最後の場面でオーボエとフルートが共存しますから、両方の演奏者が要りますが、それぞれお休みの場面が多いと勿体ないので、そういうシーンでも、当時の演奏習慣の一つであるコラパルテ(伴奏は主旋律に従って)という手法を採って、オーボエやフルートにも適宜参加して頂くなど、お祭り的な感覚で楽しく演奏したいと考えています」。

 ちなみに、当日は《アナクレオン》一作だけでなく、前段として、リュリやラモーの舞曲やアリアなども演奏とのこと。

 「メゾソプラノの波多野睦美さんにご出演頂き、大きなアリアを歌っていただくほか、先ほどお名前を出したバロック・ダンスのドレさんと松本さんが舞台で踊られます。前半はバロック・ダンスが登場したころの17世紀後半の音楽が中心になり、後半は《アナクレオン》。盛りだくさんのプログラムですが、17世紀の踊りと18世紀の踊りの違いも目で確かめていただくチャンスかと思います。ご来場をお待ちしています!」

《アナクレオン》(演奏会形式/フランス語上演・字幕付)
2021.12/10(金)18:00、12/12(日)14:00 北とぴあ さくらホール

〈出演〉
指揮・ヴァイオリン:寺神戸亮
合唱・管弦楽:レ・ボレアード
バロック・ダンス:ピエール=フランソワ・ドレ(振付、演出)、松本更紗(振付)
アナクレオン:与那城敬
愛の神:湯川亜也子 
バッカスの巫女:佐藤裕希恵
歌:波多野睦美
※出演者・スタッフは変更となる場合がございます。
〈その他の曲目〉
ルベル:《様々な舞曲》
コレッリ:フォーリア
リュリ:コメディ・バレ《町人貴族》〈諸国民のバレ〉より
リュリ:オペラ《アルミード》より〈パッサカイユ〉 ほか

問:北区文化振興財団03-5390-1221 
https://kitabunka.or.jp
※音楽祭の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。