園田隆一郎(音楽監督/ピアノ)& 大西宇宙(バリトン)

新企画、贅沢な空間で3人の主役が魅せる名作オペラの深層

 オペラからミュージカルまで意欲的な活動を繰り広げている才人演出家、田尾下哲。2つの名作オペラを一作に凝縮した《セヴィリアの理髪師の結婚》は、アイディア、内容とも絶賛された。この12月には、《椿姫》《トスカ》《蝶々夫人》という3大名作オペラを独自の視点から再構成するシリーズ、「TRAGIC TRILOGY(トラジック・トリロジー)」がHakuju Hallでスタートする。出演は主役3人(青木エマ、城宏憲、大西宇宙)のみで、田尾下の台本を通じて物語の背景に踏み込むという。第1作となる《椿姫》について、音楽監督とピアノを務める指揮者の園田隆一郎、ジェルモン役の大西宇宙に話を聞いた。

園田「《椿姫》は音楽が厳しいのです。シンプルで無駄がないので、いい加減な演奏をはねつけてしまう。フレージングにしろテンポにしろ、変な揺らし方をすると音楽が崩れます。ヴェルディの音楽の厳しさ、嘘のなさを表現しつつ、歌手、特にソプラノの方の個性も生かさなければなりません。人間の弱さに温かな視線を向けた作品なので、そこも共感できるところです」

大西「自分が悪役を演じる場合、悪人だという先入観を持たないようにしています。何か理由があって悪人になったのかもしれない、そのような人間の多面性を大事にしたいのです。ジェルモンは悪役と捉えられがちですが、『家』を背負っている複雑な面がある。声や表現力だけでなく『間合い』を要求される成熟した役なのでこれまで避けてきましたが、取り組めるかなと思うようになったのでお受けいたしました。ヴィオレッタに対して初めは高圧的ですが、次第にアマービレになっていく。そのあたりの葛藤が出せたらと思っています」

 3人だけ演じるというとハイライト版かと想像しがちだが、ほぼ全曲演奏されるという。

園田「カットはほとんどありません。曲もほぼ変えないと思います。Hakuju Hallという小さな空間なのでドラマが出やすいし、素材を楽しんでいただけるのではないかと思います」

大西「原作や背景を知ることは、歌手にとって助けになります。《椿姫》はデュマやヴェルディの私的な状況とも関係があるパーソナルな話で、田尾下さんの演出ではそれが深掘りされるようなのでとても楽しみです」

 共演者には、「まっすぐな声と音楽」を持つ城宏憲(アルフレード)と「憂いのある色を持つ声と美しい容姿」(園田)を兼ね備えた青木エマ(ヴィオレッタ)が登場する。名作の深淵を見せてくれる公演になることだろう。
取材・文:加藤浩子
(ぶらあぼ2021年11月号より)

TRAGIC TRILOGY I「椿姫」
2021.12/10(金)18:30 Hakuju Hall

問:Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700 
https://www.hakujuhall.jp