フォーレ四重奏団にハーゲンQ …
TOPPANホール 25周年シーズンは豪華アーティスト陣が勢揃い

TOPPANホール内観

 TOPPANホールが10月1日に開館25周年を迎える。当ホールは、精緻な音響や筋の通った企画で音楽家とファン双方の信頼を得てきた“室内楽の殿堂”。プログラミング・ディレクターの西巻正史は25年をこう振り返る。

 「駅から遠い408席の後発ホールというハンデをプラスに変えるべく、独自路線を貫いてきました。『自分の楽器だけが好き』ではなく、『音楽が好き』で『他の奏者とのコラボレーションが好き』な演奏家に出演してもらうことと、企画やプログラムを自分たちの手で作っていくこと。ホールはコンサートを“開く”場所ではなく“作る”場所だと考えたのです」

西巻正史 プログラミング・ディレクター ©藤本史昭

 さて、25周年を彩る2025/26シーズンの主催公演の注目点を、西巻氏の言葉(以下「 」内)を交えてご紹介しよう。まず全体像は「未来への展望や橋渡しと、これまでの総括や結実を意識した」内容だ。

 オープニングは〈TOPPANホール25周年 室内楽フェスティバル フォーレ四重奏団とともに〉。世界でも稀な常設のピアノ四重奏団であるフォーレQは、精緻かつ濃密で生気に富んだ“現代最高の室内アンサンブル”。「前述のポリシーを体現している」グループゆえに、近年主催公演の柱をなしている。しかも今回は、ピアノ四重奏に加えて、ヴァイオリンの日下紗矢子、ヴィオラのニルス・メンケマイヤー等の名奏者や、現代を代表するソプラノ歌手の一人、アネッテ・ダッシュとの共演など、趣向を凝らした5公演が用意されている。

フォーレ四重奏団 ©Tim Kloecker

 「今回はメンバー個々の魅力を打ち出したいと考えました。彼らのようにソリストと互角以上の実力を持つ演奏家がアンサンブルに傾注しているのがヨーロッパの室内楽の厚み。それを知ってもらえる多面的なプログラムを企画しました」

 5公演全て興味深い内容だが、特筆すべきはダッシュが出演する2夜。「彼女は2012年の公演が(懐妊中で)ベストの状態ではなかったので、もう一度やりたいと思っていた」ところ、「最近フォーレQとコラボしているのを知って」今回の共演に至った。中でもオペレッタ/ミュージカル中心のプログラムは新鮮な魅力に溢れている。

左:ハーゲン・クァルテット ©Andrej Grilc
右:イェルク・ヴィトマン ©Marco Borggreve

 もう1つ、25周年に相応しいのがハーゲン・クァルテット。40余年の活動歴を誇る世界最高の弦楽四重奏団たる彼らは、2025/26シーズンをもって引退する。そこで当ホールでは二度にわたる〈ハーゲン プロジェクト フィナーレ〉を開催。これは、20年間多様な公演を行い、彼らをして「日本のホーム」と言わしめるこのホールならではの企画だ。11月の3公演(完売)では、鬼才クラリネット奏者&作曲家イェルク・ヴィトマンの出演が注目されるし、周年シーズンを締めくくる2026年7月の「世界最後の2公演」はむろん必聴だ。

 なおヴィトマンは日本人奏者との室内楽公演も行う。「このためだけに帰国する」ミュンヘン・フィルのコンマス・青木尚佳や、チェロの笹沼樹、ピアノの永野英樹(アンサンブル・アンテルコンタンポランに属する彼とヴィトマンの邂逅も意味深い)という共演者の顔ぶれも実にTOPPANらしい。

左より:ニコラ・アルトシュテット ©Marco Borggreve/アンナ・プロハスカ ©Marco Borggreve
ジャン=クロード・ぺヌティエ ©大窪道治/ティル・フェルナー ©Gabriela Brandenstein
日下紗矢子 ©Akira Muto

 そして〈ニューイヤーコンサート〉。新年らしからぬシリアスな内容で知られる同公演だが、今回は趣向が異なり、今年から貸与されているピアノ「1909年製ベーゼンドルファーModel250」の「温かく深い音」を生かした超名曲プロが予定されている。また〈ランチタイムコンサート〉でも同楽器を用いた公演が行われるので、その音色にぜひ触れてみたい。

 さらにシーズン後半の目玉の1つが〈ニコラ・アルトシュテット(チェロ) プロジェクト〉。「アホネンやグリンゴルツ等の鬼才を集めた」攻撃的な2夜が好奇心を刺激する。

左上より:ニルス・メンケマイヤー ©Irène Zandel/アネッテ・ダッシュ ©Daniel Pasche
青木尚佳 ©井村重人/笹沼 樹 ©Taira Tairadate/永野英樹 ©J.RADEL

 このほか、「すごい歌手。『これは事件だ』といえる公演」となるソプラノのアンナ・プロハスカ等の初登場組に、「最後の日本公演になるかもしれない」ジャン=クロード・ぺヌティエや、ティル・フェルナー(共にピアノ)といったゆかりの名手等々、書き切れないほど魅力的な公演が続く。

 ホール企画から生まれたコラボレーションやプログラムはすでに欧州でも再現されており、「今後も実現させていきたい」と西巻氏は語る。我々は垂涎の企画ばかりの25周年シーズンを存分に満喫したい。

取材・文:柴田克彦

(ぶらあぼ2025年10月号より)

TOPPANホール25周年 室内楽フェスティバル 
2025/26シーズンオープニング 特別企画

【I】2025.10/2(木)19:00(完売) 
【II】10/4(土)18:00(完売)
【III】10/5(日)18:00 
【IV】10/7(火)19:00 
【V】10/8(水)19:00 TOPPANホール
イェルク・ヴィトマン(クラリネット) mit 青木尚佳(ヴァイオリン) & 笹沼 樹(チェロ) & 永野英樹(ピアノ)
2025.11/15(土)13:00 TOPPANホール
問:TOPPANホールチケットセンター03-5840-2222 
https://www.toppanhall.com
※シーズンプログラム、発売日などの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。