海の京都、森の京都で極上の室内楽を味わう!
京都府内の幅広い地域に一流の音楽を届けるべく創設された、Music Fusion in Kyoto音楽祭。 10月から各地で演奏家が小中学校を訪問する教育プログラムが行われていたなか、10月12日〜19日の週末には、舞鶴市、宮津市、城陽市、長岡京市、京丹波町という5つの街で室内楽コンサートが行われました。その一部のコンサートの様子をレポートします。
最初の舞台となったのは、北部の“海の京都”、天橋立の絶景でよく知られる宮津。漁師町でもあり、新鮮な魚介類を楽しむこともできる地域です。
幕開けの公演は、ピアニストの田村響さんによるリサイタル。ショパン、ラフマニノフ、シューベルト、ベートヴェンから、誰もが知る有名曲と、トップピアニストの技巧が冴える楽曲がバランスよく選ばれ、聴衆もぐんぐん引き込まれていました。
京都市立芸術大学の准教授でもあり、京都には縁のある田村さんですが、「宮津には天橋立に観光で訪れたことがあるのと、伊根の日本酒を生徒からお土産にもらったことがあるくらいで、演奏に来たのは初めてです。こうして京都北部でコンサートをする機会がもっと増えると嬉しい」と話していました。
会場となったみやづ歴史の館文化ホールの近くには、日本最古の教会の一つであるカトリック宮津教会や、地元の野菜や魚介を販売する道の駅など、次の公演まで散策を楽しめるスポットが点在しています。
続いての公演は、妙照寺における室内楽の演奏会。チケットは即完売だったそうで、地域の方々の音楽への関心の高さが窺えます。
演奏されたのは、音楽祭の音楽監督である豊嶋泰嗣さんのヴィオラと、林七奈さんのヴァイオリン、上森祥平さんのチェロによる、モーツァルト「弦楽三重奏のためのディヴェルティメント」。
聴衆の前に登場すると、林さんは振り返って仏様に一礼。後で聞いたところによると、「ずっとお尻を向けて座ることになったので…うまくいきますようにと祈ってから演奏しました」とのこと。
コンサートホールとはまた違う寺院特有の静けさの中で3つの弦の音が混ざり合うと、不思議な心地よさを感じます。参拝に訪れた方が、お堂から漏れ聞こえる演奏に耳を傾ける場面も見られました。
「580年の歴史ある建物の中で演奏すると、やはり特別な感慨がありました」と豊嶋さん。宮津は初めて訪れたそうですが、「超絶気に入りました。都会に帰りたくなくなりますね!」
続いてはその隣の大頂寺に会場を移し、クァルテット・インダコとクラリネットのポール・メイエさんによる演奏会。世界的に活躍するソリストを、このような親密かつユニークな空間で聴くことができる、貴重な機会でもあります。立体感のあるアンサンブルに、聴衆は熱心に耳を傾けていました。
「このような空間で演奏できるなんて、音楽のバイブレーションと古い建物、歴史、文化が共鳴して、夢のようでした」と、アニメなどが大好きで日本通だというインダコのチェリスト、コジモ・カロヴァニさん。宮津エリアで感銘を受けたのは、森の美しさだといいます。
「あちこちに木々が繁る森が点在していて、その中にぽつんと寺や神社がある。ハヤオ・ミヤザキの映画の世界のようですね!」
メイエさんも、寺のお堂という会場はもちろん、初めて訪れた宮津という街も「インスパイアを与えてくれた」と話します。
「宗教的な場という意味では、ヨーロッパでも教会で演奏することはありますが、教会は石造りです。日本の寺院は木造建築で広さもちょうどよく、木の楽器であるクラリネットと弦楽器のアンサンブルにはぴったりだと思いました」
この日はさらに、寺から徒歩10分ほどの距離にある重要文化財の旧三上家住宅で、上村昇さんによるバッハの無伴奏チェロの演奏会も行われました。
この会場は、江戸時代に酒造業・廻船業・糸問屋などを営んだ商家で、白壁の外観が美しい住宅。酒造蔵として使われていたエリアには立派な梁が渡されています。木と石でできたシンプルなようで入り組んだ空間に、同じくシンプルなようで複雑な無伴奏チェロによるバッハが流れました。
学生時代を京都で過ごした上村さんですが、「舞鶴には40年近く前に来たことがあるけれど、宮津は初めて」だといいます。
商家の邸宅という特殊な会場について、「チェロ一本でバッハを弾くというのに初めての場所だったため少し不安でしたが、リハーサルで音を出して安心しました。いろいろなことを思い浮かべながら弾いていました…楽しかったですね」
Music Fusion in Kyoto 音楽祭
https://music-fusion.kyoto