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高坂はる香のワルシャワ現地レポート 第15回
取材・文:高坂はる香
※ファイナル期間中、結果発表の前に行われた合同インタビューからのまとめです
──普段、若いピアニストの演奏を聴いて才能があると判断する観点と、こうしたショパンコンクールという場だからこその観点、注意を払うポイントに、違いはあるのでしょうか。
やはりここはショパンに特化した場ですから、審査員側はそれぞれの知識や経験に基づいて、彼らがショパンを今までどんなふうに勉強し積み上げてきたのかを見極めながら判断していると思います。
ただ、今回のようにこれほど異なる才能を持つ方達が揃うと、どこを見て何を一番良いと判断するかは、大変難しい問題になってきます。
コンクールという場で何を良しとするのか、完璧さを見るのか、それとも音楽という音のアートとして感動を得られるかを見るのか。重きを置く点によって評価が違ってくるのだと思います。

©Wojciech Grzedzinski/NIFC
──審査員の先生方がみんな違う感覚を持っているからこそ、ファイナリストも全く違うタイプの方たちが揃ったのですね。
本当にみんな違いますね。だからこそ、1位の一人だけが良かったというのではなく、この方のこの演奏がすばらしかったと印象に残る場面がたくさん出てくれば良いのですけれどね。
──規定によると、採点表は、1次は全ラウンドが終わってから提出、2次、3次はセッションごとに提出しなくてはならないということでした。2次、3次は、ラウンド全ての演奏が終わったあと点数を修正できるのですか?
はい、修正できました。ただ修正できるのは5人までと言われたり、投票するほんの10分前に8人まで直していいと言われたり、3次の時にはいくつまででも直せるということになったりと、臨機応変という感じでした。
ファイナルのあとは、点数による集計結果が出てから初めて討議できるので、時間がかかりそうです。出てきた結果に2/3以上が承諾しなければ、話が延々と続くことになるでしょうから。
加えて、マズルカ賞・ポロネーズ賞・ソナタ賞・コンチェルト賞などの特別賞も、3点から1点の候補を3人ずつ提出して決めるというのが今回からのルールなので、これも大変そうです。今回は初めてのことばかりですね。
──ラウンドごと、それぞれの審査員に、自分が思った通りの結果ではなかったという部分があったとは思うのですが、海老先生もそう感じたところはありましたか?
そうですね、それはありました。1次の結果の時からありました。ギャリック・オールソン先生も1次からそれをおっしゃっていて、ファイナルまで残った方に、彼が最初に高い点数をつけた上から3人が一人も残っていなくて、逆に下のほうの点数をつけた人たちが入っていると本当に肩を落とされて、しょげて、とぼとぼ歩いていらっしゃいましたね。

©Wojciech Grzedzinski/NIFC
──多くの審査員からそういう声が聞かれますが、やはり採点と集計の方法によって、審査員の真意が反映されにくくなっているのでしょうか。
どうなんでしょうね…各ステージを規定の割合で取り入れる集計作業をしてくださっていることがどういう結果を生むのかは、蓋を開けてみないと分からない状況でした。
私が今NIFC(ショパン研究所)にお願いしているのは、全てが終わってから、昔風のやり方…一番上と下の点数を除いて平均点を出す方法をとった場合、どんな結果になっていたかを、参考までに見せてもらえたらということです。実際にやってくださるかはわからないですけれど。…点数を公表するんだから自分で計算できるでしょうと言われるかもしれないですが(笑)。
ただ、どんな方法でやっても必ず意見が出てくるのが音楽コンクールですから。スポーツのように数値で結果が出るわけではありませんので。
──ファイナルでは、今回からコンチェルトに加えて「幻想ポロネーズ」も演奏されることになりました。これについてはどうお感じになりましたか?
まず弾くほうは大変だろうと思いました。周りにオーケストラの方が座って待っている状態ですし。オーケストラも大変だと思います。
ポポヴァ=ズィドロン先生がネット上のコメントをご覧になったところ、ポーランドの聴衆はあまり良い印象を持っていないみたいだとおっしゃっていました。どうやらみなさん、協奏曲でお祭りのような高揚した雰囲気で終わりたかったようで。
「幻想ポロネーズ」はすばらしい作品ですが、最後にそれを含めて評価するということには、難しさも感じました。

──最終結果に反映されるファイナルの点数の割合が35%という点については、いかがでしょう。
おそらくあの配点を考えた方々は、前のラウンドのことは考える必要がないようにと、1次、2次、3次のパーセンテージを割り振られたのだと思います。ただ、私たち審査員には前の記憶がちゃんと残っているものですから、そこまで操作してくれなくても大丈夫な頭ですよ、とは思いますね…。ただ、すごく考えた末に決められた規定だと思うので、何か意見をするとすれば、相当説得力がなくてはいけません。難しいですね。
──ラウンドごとに審査員の先生方の座る位置が変わっていましたね。
それもNIFCからの指定で、席を変わるようにということでした。
──今回のコンテスタントの全体的な特徴については、どうお感じになりましたか?
レベルが上がっていると思います。戦争の影響もあってか、ロシアやイスラエル系の方があまり参加していませんでしたが、それでも技術的、音楽的なレベルの高い方たちがたくさんいました。
日本の方々も大変健闘していて、優れた方がいっぱい出てきています。牛田智大さんは、1次などすばらしかったとみんなが言っていますね。ポーランドに留学して、少しずついろいろ楽になってきたとおっしゃっていましたけれど、これからすごく楽しみな才能だと思います。あとは、中川優芽花さんもすばらしかったですから、審査結果というのはわからないものです。
こういう場を通して、このフィルハーモニーで響いている音と音楽を自分で聴くことが、それぞれの栄養になるだろうと思います。
これだけ優秀な方達が育ってきているので、日本の力は強いぞ!と私は思っています。前回の反田恭平さん、小林愛実さん、角野隼斗さんなども、みんなすばらしい才能ですよね。
Chopin Competition
https://www.chopincompetition.pl/en
【Information】
第19回ショパン国際ピアノ・コンクール2025 優勝者リサイタル
2025.12/15(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
2025.12/16(火)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
第19回ショパン国際ピアノ・コンクール 2025 入賞者ガラ・コンサート
2026.1/27(火)、1/28(水)18:00 東京芸術劇場 コンサートホール
2026.1/31(土)13:30 愛知県芸術劇場 コンサートホール
出演
第19回ショパン国際ピアノ・コンクール入賞者(複数名)、アンドレイ・ボレイコ(指揮)、ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団
他公演
2026.1/22(木) 熊本県立劇場 コンサートホール(096-363-2233)
2026.1/23(金) 福岡シンフォニーホール(092-725-9112)
2026.1/24(土)大阪/ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
2026.1/25(日) 京都コンサートホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
2026.1/29(木) ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川芸術協会045-453-5080)


高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/



