ピエール・ブリューズ(指揮)

さまざまな時代の音楽に透徹した眼差しを向ける異才

©Marine Pierrot Detry

 アンサンブル・アンテルコンタンポラン(EIC)の音楽監督とデンマークのオーデンセ交響楽団の首席指揮者であり、チェリストのパブロ・カザルスが創設したプラド音楽祭の芸術監督でもあるピエール・ブリューズが、3月はじめに来日し、川崎と神戸で二つのコンサートを指揮する。

 川崎では東京交響楽団とフランス音楽のプログラムを演奏する。ドビュッシー(ビュッセル編)の小組曲、サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番(独奏:MINAMI(吉田南))と交響曲第3番「オルガン付き」(独奏:大木麻理)だ。「小組曲は子どものような純真さが魅力で、初期の作品ながらもドビュッシーの長所がたくさん詰まっており、この曲を通して東京交響楽団と知り合えることはとても嬉しい」と語る。サン=サーンスの協奏曲は、ヴァイオリニストだった彼自身もかつてよく演奏した作品だが、指揮するのはなんと今回が初めてだという。「オルガン付き」のクライマックスで、パイプオルガンがホールいっぱいに壮大な音を響かせるところは、からだ中が痺れるくらい強いインパクトがある。素晴らしいメロディラインとオケの可能性を自在に引き出す書法で書かれた、フランス音楽特有の色彩溢れた名曲を情熱的なタクトで描き、感動のコンサートになることは間違いない。

 神戸市室内管弦楽団との公演は、20世紀プログラムとなっている。まず、ラヴェルの「マ・メール・ロワ」とピアノ協奏曲 ト長調(独奏:三浦謙司)で古典的な要素を聴かせる。バロックヴァイオリンの経験も長いブリューズは、「ラヴェルの音楽に流れる古典趣味を、『モーツァルトタイプ』のオーケストラである神戸市室内管弦楽団とともに引き出せれば」と抱負を述べている。また、チャールズ・アイヴズの交響曲第3番がプログラムに組まれていることを非常に喜び、特に「生誕150年の佳節にこの曲を人生で初めて指揮できることは光栄だ」と目を輝かせる。EICで、存命の作曲家の作品を多く手がける彼は、20、21世紀音楽について、「20世紀はじめまでは、コンサートで演奏される曲はほとんどが作曲されたばかりの『現代音楽』でした。その意味で、私たちの時代に作曲された音楽を積極的に取り上げていくのは大変に重要なことです」と言う。古楽から21世紀までの膨大なレパートリーを誇り、ヴァイオリニストとしても、指揮者としても多くの経験をもつ異才の音楽家ピエール・ブリューズが、日本でどのような音を聴かせてくれるのか、おおいに楽しみだ。
取材・文:岡田 Victoria 朋子
(ぶらあぼ2024年2月号より)

ミューザ川崎シンフォニーホール & 東京交響楽団 名曲全集 第195回
2024.3/2(土)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
https://www.kawasaki-sym-hall.jp

神戸市室内管弦楽団 第161回 定期演奏会『ラヴェルに乾杯!』
2024.3/9(土)15:00 神戸文化ホール
問:神戸文化ホールプレイガイド078-351-3349 
https://www.kobe-bunka.jp/hall/