尾高忠明(指揮)

満を持して楽団ゆかりのブルックナーを

(c)飯島 隆

 大阪フィルハーモニー交響楽団の第3代音楽監督に尾高忠明が就任したのは2018年。5年目のシーズン初夏のインタビュー時に「本当の家族の一員になっていると感じられます」と語っていたマエストロ。シーズン終盤に入る23年1月の第564回定期と第55回東京定期に登壇し、池辺晋一郎の交響曲第10番「次の時代のために」とブルックナーの交響曲第7番(ハース版)という、5年間の成果を示すようなプログラムを聴かせる。前者は自身が初演した作品でもあり、この組み合わせは興味深い。

 「池辺さんは兄(尾高惇忠)の大親友で、本当に長いお付き合いです。NHKの番組や大河ドラマのテーマ音楽など、たくさんご一緒しました。池辺さんの10番を初演することになったとき、最初は劇伴のようなものを想像していたのですが、実際はそれまでのイメージと違う音楽で、池辺さんは新たな領域に到達されたのだな、と意外性に驚きました。ブルックナーも6番までと7番とでは明らかに異なり、やはり新たな領域へ踏み入っています。今回はふたりの作曲家にとって新境地となった交響曲を合わせて演奏します」

 「大阪フィルにとってブルックナー第7番は特別な作品」とは本公演チラシの文言だが、尾高にとっても「大阪フィルとの第7番」、そしてブルックナーという存在は特別だという。

 「ブルックナーは大阪フィルにとって大事な作曲家で、7番については有名なザンクト・フロリアンでの体験(1975年)もあります。僕自身は、2012年に初めて大阪フィルで7番を指揮しましたが、振りながら“こんな音がするんだ”と感動したのを憶えています。あれから11年経って、オーケストラとも関係が深まり、どう変わっているのか、自分でも楽しみです。

 ブルックナーは、指揮者だった父(尾高尚忠)が最後に指揮したのが9番で、特別な思いがありました。その後奇しくも、朝比奈隆先生が亡くなられた後、しばらくブルックナーを演奏していなかった大阪フィルで9番を指揮することになり、その時にたしかに朝比奈先生の音、DNAを感じました。その大阪フィルと父からのDNAを受け継いだ僕のブルックナーが一緒になって、また新たなものが生まれていくと思います」

 実は大阪フィルとの冬の東京公演が、2020年から5年連続でブルックナーの交響曲となっている(中止になった21年と24年の予定も含む)。そのことに触れると「朝比奈先生の時代にあれだけたくさんブルックナーを演奏していた大阪フィルと、もともとブルックナーが大好きな自分が一緒になったのですからむしろ当然、という感じでしょうか」と心強いコメント。

 22年8月のミューザ川崎における得意のエルガー交響曲第1番は、ヨーロッパの楽団のような表現意欲と共感にあふれる大変な名演だった。マエストロにとってエルガーに劣らず大切な二人の作曲家、池辺とブルックナーのシンフォニーで、「引き続きとてもいい家族関係を築けている」という大阪フィルとどれほど成熟した演奏が構築されるのか、“新境地”を見せるのか。楽しみというほかない。
取材・文:林 昌英
(ぶらあぼ2023年1月号より)

大阪フィルハーモニー交響楽団
第564回 定期演奏会
2023.1/19(木)、 1/20 (金)各日19:00 大阪/フェスティバルホール
第55回 東京定期演奏会
2023.1/24(火)19:00 サントリーホール
問:大阪フィル・チケットセンター06-6656-4890
https://www.osaka-phil.com