日本でもおなじみ、ウィーン・フィル団員のヘーデンボルク兄弟の兄・和樹がベートーヴェンに挑んだ。余計な表現は排し、右手も左手も最小限のコントロール。「楽聖」の過剰な虚飾を取り除き、「ウィーン古典派の作曲家」の姿を取り戻そうとしているかのよう。イ短調ソナタ終盤の技巧的な見せ場でも激することはない。その姿勢は、彼の指名による森泰子のピアノの、素朴なまでに高い純度の音にも行き届いている。「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」が親密な空間で奏でられていた作曲当時の精神に、現代の楽器と奏法でも立ち戻れる、という静かな意欲が横溢する一枚。
文:林昌英
(ぶらあぼ2023年1月号より)
【information】
CD『ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第4番・第5番「春」・第10番/ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク&森泰子』
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第4番、同第5番「春」、同第10番
ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク(ヴァイオリン)
森泰子(ピアノ)
カメラータ・トウキョウ
CMCD-28383 ¥3080(税込)