イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)

現代最高のバッハ無伴奏公演が急遽実現!

(c)Felix Broede

 世界最高峰のヴァイオリニストの一人、イザベル・ファウストが、今秋日本でJ.S.バッハの無伴奏ソナタ&パルティータのコンサートを行う。もともと予定されていたイル・ジャルディーノ・アルモニコとのツアーは残念ながら中止となったが、単独で来日して稀代の名作を聴かせてくれる点に、彼女ならではの誠意が表れている。

 ファウストは、1993年のパガニーニ国際ヴァイオリンコンクール優勝後、リサイタルや室内楽で多彩な活動を行うほか、ベルリン・フィルをはじめとする世界の著名オーケストラや、アバド、ブリュッヘン、ハイティンク、ネルソンス等の一流指揮者と共演し、数多くの名録音をリリースしている。彼女は、高度な技巧をひけらかすことなく、真摯かつ誠実なアプローチで楽曲の本質や真の魅力を聴かせる名奏者。無用な力を入れずしてよく通る音と軽やかなボウイングで紡がれる芯のある音楽は、聴く者に必ずや深い感銘を与える。しかも研究熱心で、古楽やピリオド奏法にも造詣が深い。メインの楽器はストラディヴァリウス「スリーピング・ビューティー」だが、バロック・ヴァイオリンも弾くし、スティール弦とガット弦、モダン弓とバロック弓の使い分けも行う。それゆえ演奏への信頼度は高く、なかでもバッハのコンサートは毎回が要注目となる。

 バッハの無伴奏ソナタ&パルティータ全6曲は、言うまでもなくヴァイオリンのバイブル的存在。1本の楽器でポリフォニーを実現した多様かつ深遠な音楽だ。ファウストは2009年と11年の全曲録音や、日本でたびたび披露した全曲および抜粋の演奏で賞賛を博しているが、日々研究し進化する名手だけに、今いかなる表現がなされるのか? 期待は大いに膨らむ。

 以前ファウストのバッハの公演(二重奏曲&無伴奏)を聴いた際、曲中で弓を替えていたことに驚き、直後の取材でそれに触れると、「常に複数のバロック弓を持ち歩き、その日はバロック・ヴァイオリンを用いて、遅い楽章は柔らかい弓、速い楽章はアーティキュレーションが明確な弓、無伴奏曲は3本目の長い弓で弾きました。ただ、作曲者や楽曲のみならず、ホールや湿度といった状況によっても変わりますし、最終的には楽器ではなく音楽がすべてです」と答えた。これは彼女の音楽に対する繊細な配慮を示す好例。今回はどうなるのか? 実に興味深い。

 11月のツアーでは、東京オペラシティで2日にわたって全6曲、高崎で3曲が披露され、いずれも、かの「シャコンヌ」を含むパルティータ第2番が最後に置かれている。彼女は「ニ短調の『シャコンヌ』の後に他の曲を演奏するのは、想像もつきません」と話し、加えて「バッハの作品では、強調される拍とそうでない拍、不協和音と協和音を明確に表現することが重要。それによってパルスが生まれます。そしてバッハの時代の音楽は舞曲がベースになっていますから、リズムが大事になります」と語っていたので、このあたりも見どころとなろう。

 いずれにせよこれは間違いなく“現代最高クラスのバッハ無伴奏”公演。むろん必聴だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2021年11月号より)

イザベル・ファウスト J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ全曲演奏会
2021.11/17(水)、11/18(木)各日19:00
東京オペラシティ コンサートホール 
10/20(水)発売
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
https://www.operacity.jp

イザベル・ファウスト 無伴奏ヴァイオリン・リサイタル
2021.11/21(日)15:00 高崎芸術劇場 音楽ホール
問:高崎芸術劇場チケットセンター027-321-3900
http://takasaki-foundation.or.jp/theatre/