INTERVIEW 千住真理子(ヴァイオリン)

音楽は人間の精神的に大切なものを守るかけがいのない手段

取材・文:柴田克彦

 この秋、クラシック・キャラバン2021「クラシック音楽が世界をつなぐ〜輝く未来に向けて〜」が開催されている。これは、困難な状況に置かれたクラシック音楽界を活性化させるために企画された全国規模の公演プロジェクト。9月〜12月に13カ所で19公演が行われ、250人に及ぶ多彩なアーティストが参加する。

千住真理子
(C)Kiyotaka Saito(SCOPE)

アーティストたちが仲間意識をもって参加する


 人気ヴァイオリニスト、千住真理子もその一人。彼女は当公演の意義をこう話す。
「多くの演奏家が集って色々な作曲家の音楽を披露する、いわばアラカルトですよね。有名なメロディだけを抜粋した、普段にはないゴージャスな試みです。様々な演奏家や音楽が登場するので、これまでクラシックを聴かなかった方にも楽しんでいただけますし、気に入る曲や楽器を新たに見つけるきっかけにもなります。また各々の演奏時間は短いのですが、それだけに多くの奏者が出演できる。これによって演奏家を応援するコンサートにもなるわけです。多数の演奏家を集めるのは大変ですし、皆が仲間だという意識を持って、アーティストたちが所属先などに関係なく集まるのはこれまでになかったこと。逆にこういう世の中だからこそ実現できた企画ともいえます」

得意の名作で聴衆を夢の世界に誘う


 内容は2種類ある。まず〈華麗なるガラ・コンサート〉は、フリーの演奏家を中心とした「スーパー・クラシック・オーケストラ」が出演する大ホールでの公演。千住は11月28日、東京オペラシティの回に出演し、サン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」を披露する。

「愉しくて夢のある曲。少女の頃から夢見てきたドリーム感に溢れる曲であり、艶やかでドラマティックでもあります。またこの曲はその場の雰囲気によって表現が変化しますので、ガラ・コンサート独特の空気感の中でどのような演奏になるのか? 私自身予測できない楽しみもあります。いずれにしても、皆さんを夢の世界へお連れしたい! そんな気持ちでいます」

 もう一つは〈動物の謝肉祭〉〈兵士の物語〉と題した中小ホールでの室内楽的な公演。千住は10月29日、浜離宮朝日ホールの回で、「阿吽の呼吸で自在に弾ける」レギュラー・パートナーの山洞智(ピアノ)と共に、エルガーの「愛の挨拶」とモンティの「チャールダーシュ」を演奏する。

「お客さんが本当に喜んでくださる2曲です。いずれも無数に演奏していながら、弾くたびに新鮮な気持ちになる作品。それこそが名曲ですよね。『愛の挨拶』は皆さんがすぅーと入っていける曲なので、公演全体の導入にもピッタリです。『チャールダーシュ』は当日の空気次第で表現を自在に変えられる曲なので、どのように“波”を作っていくかがポイント。私は速い部分でテンポを変えながら聴衆を揺さぶりたいと思っています」

 両公演共に千住は最初に登場するソリストだ。その点を含めて、自身の期待感も高い。
「最初に演奏する今回は公演の空気を作り出す役割があるのでそこが妙味ですし、早く弾き終わるのでその後の演奏を聴ける楽しみもあります。しかもこれだけ多くの演奏家と同じコンサートでご一緒することは普段有り得ないので、それもまた愉しい。さらにファンの方には、いつもと違う私を発見したり、違う楽器や演奏家を好きになる可能性も生まれます」

(C)Kiyotaka Saito(SCOPE)

音楽こそが感情を人の心にストレートに届けることができる

 彼女は、コロナ禍で音楽の必要性を改めて感じたという。
「当初は不要不急の部類に入るのかとネガティブに考えましたが、インスタグラムを始めて皆さんの思いがわかるようになってくると、音楽は人生に必要だからここまで残ってきたのではないか、人間だけにある精神的な大切なものを守るかけがえのない手段だ、と考えるようになりました。何かとコミュニケーションがとれなくなっている今、音楽こそが感情を人の心にストレートに届けることができるもの。それを一度奪い取られると、どんなに大切だったかがわかりました。だからこそコンサートが戻ってきてからは、一回一回をこれまで以上にかけがえのない気持ちで演奏しています」

 こうした思いを抱いた演奏家が集って聴かせる「クラシック・キャラバン2021」。異なるヴァイオリニストが弾く同じ曲を聴き比べる楽しみなどもあるので、一度ならず足を運んでみたい。


【Profile】
千住真理子(ヴァイオリン)

2歳半よりヴァイオリンを始める。全日本学生音楽コンクール小学生の部全国1位。NHK交響楽団と共演し12歳でデビュー。日本音楽コンクールに最年少15歳で優勝、レウカディア賞受賞。パガニーニ国際コンクールに最年少で入賞。2002年秋、ストラディヴァリウス「デュランティ」との運命的な出会いを果たし、話題となる。コンサート活動以外にも、講演会やラジオのパーソナリティを務めるなど、多岐に亘り活躍。また、チャリティーコンサート等、社会活動にも関心を寄せている。2020年はデビュー45周年を迎える。著書は『聞いて、ヴァイオリンの詩』(時事通信社、文藝春秋社文春文庫)、母との共著『母と娘の協奏曲』(時事通信社)、『千住家、母娘の往復書簡』(文藝春秋社文春文庫)など多数。
千住真理子オフィシャル・ホームページ http://www.marikosenju.com/


【Information】
クラシック・キャラバン2021
クラシック音楽が世界をつなぐ〜輝く未来に向けて〜

千住真理子出演公演

兵士の物語 
2021.10/29(金)18:30 浜離宮朝日ホール 

華麗なるガラ・コンサート
2021.11/28(日)15:00 東京オペラシティ コンサートホール 

問:東京公演総合窓口03-3943-7066
https://classic-caravan2021.com 
※各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

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