【WEBぶらあぼ特別インタビュー】アントニオ・パッパーノ(指揮)〜英国ロイヤル・オペラ日本公演開幕直前

 9月12日に初日を迎える英国ロイヤル・オペラ日本公演。世界でも5本の指に入るこの名門歌劇場を率いる音楽監督アントニオ・パッパーノが、開幕直前インタビューに答えてくれた。
(インタビュー・文 吉羽尋子)

(C)SIM  CANETTY CLARKE

(C)SIM CANETTY CLARKE

 指揮者も演奏家も、特定の作品を挙げて好き嫌いを言うことは珍しい。しかし、パッパーノは、開幕を飾る《マクベス》を、とても好きなオペラの一つであると明言している。

「シェイクスピアの作品をもとにヴェルディが作ったのは、とても特別な個性をもった作品なのです。暴力的で暗い雰囲気で、それでいて音楽はとても上質。そして、この物語のなかにはさまざまな関係性があります。子どものいない夫婦の関係、マクベスとバンクォーの友情という関係、それに魔女から導かれる運命とかね。夫婦の関係は、最初は夫人の方が優位に立っているけれど、話が進むに従って逆転してしまう。友情も殺し合うというふうに変わっていきます。こうした運命というのが、魔女たちが導いたものなのか、あるいは予言を聞いたことで自分が招いたものなのか…さまざまに絡み合っているところが面白いんです。
 《マクベス》を最初に指揮したのは、もうずっと昔、モンペリエで、その後に王立モネ劇場、そしてコヴェントガーデンです。このオペラでは、マクベスとマクベス夫人を歌う歌手に恵まれることが重要です。サイモン・キーンリサイドは優れた歌手であり、素晴らしい俳優なのです!」

 たしかに、マクベス役はキーンリサイドの当たり役の一つとなっている。今回のプロダクションで、通常はカットされることも多い、マクベスの“辞世のアリア”が歌われることを楽しみにしているファンも多いはず。

「マクベスの“辞世のアリア”の有無というのは、この物語において、彼の死と次の世代との関わりをどう表すか、という意味の違いがあります。私は、“マクベスの終わり”を見届けることが重要だと考えています。あのアリアが無いバージョンでは、暴力による戦いの勝利だ! というだけで終わってしまうことになりますからね」

 そういえば、“辞世のアリア”が無く、最後の場面で王位に就いたマルコムが、逃げ延びたバンクォーの息子の姿を見てギョッとしているという演出があったと聞く。これは、きっと、マルコムもまた、マクベスの轍を踏んでいくことを示唆したものだったのかもしれない。

 《マクベス》よりPhoto:ROH/Clive Barda, 2011

《マクベス》よりPhoto:ROH/Clive Barda, 2011

 日本公演の2作には、偶然にも(?)、亡霊が登場する。

「どちらも超自然のものがカギを握っているといえますね。それが、同じモーツァルトとダ・ポンテの《フィガロの結婚》や《コシ・ファン・トゥッテ》と《ドン・ジョヴァンニ》が決定的に違うところでもあるし、《マクベス》がヴェルディの他のオペラと違うところでもある。それだけで決めたわけではないけれど、この2作が並ぶのは、結果的にはとてもいいコンビネーションだと思っています」

 カスパー・ホルテン演出の《ドン・ジョヴァンニ》を、パッパーノが指揮するのはこの日本公演が初めての機会となる。2014年の初演の後、今年6月には再演も行われたが、実はこの再演では、フィナーレの部分に大きな変更があった。ドン・ジョヴァンニが地獄に落ちたところで終わり、その後のアンサンブルがカットされたのだ。演出家ホルテンは、日本公演では、指揮者や歌手と相談してどちらにするかを決めると言っていた。

「ドン・ジョヴァンニが死んだ後に、モラルについてのアンサンブルがあります。ウィーン版と呼ばれるものではこれがありません。どちらも意味のあることでしょう。でも、このモラルの部分はとても重要だと思います。なので、今回は2014年の初演のときのかたちでやります」

《ドン・ジョヴァンニ》より(写真は6月12日、ロンドンでの公演より)Photo:ROH / BILL COOPER

《ドン・ジョヴァンニ》より(写真は6月12日、ロンドンでの公演より)Photo:ROH / BILL COOPER

 《ドン・ジョヴァンニ》の版の違いについては、このオペラを悲劇とみるか喜劇とみるかの違いに通じるともいわれる。マエストロはどう考えているのか。

「ドラマ・ジョコーゾというのは両方の側面をもっているものなんです。実際に、ここにはとても複雑な要素が含まれています。ドンナ・アンナもドンナ・エルヴィーラも、とても複雑な心情をもっているのです。エルヴィーラはドン・ジョヴァンニをとても愛している、殺したいけど愛している…でしょう? 《フィガロの結婚》は、セクシーで端的な面白さがあるのに比べて、《ドン・ジョヴァンニ》は面白いけれどシリアスという両方の面をもっているのです」
 
 日頃のストレス解消法やリラックス法は「食べること」と「テレビを見ること」だと言うが、滞在中のホテルにはサイレントピアノを運び込んでいる。「コンサートの準備もあるし、勉強しておかなければならないことがあるから」。ピアニストとしての演奏には、指揮をしているときとは違う楽しさが溢れているような…と話を向けると「ピアノは自分で自在に音をコントロールできるところがとても楽しい。自分のような人間にとって、原点に戻れるものとしてピアノはとても重要なんです。オペラはシリアスにならざるを得ないから、ユーモアを使えるときには存分に楽しまないと!」
と笑った。

英国ロイヤル・オペラ2015来日公演《ドン・ジョヴァンニ》
英国ロイヤル・オペラ2015年来日公演《マクベス》

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