ドン・ジョヴァンニ

魅了されずにいられない、稀代の“ドン・ファン:色男”の物語
最新技術を駆使した演出も“現代最高”の歌手たちもすべてはモーツァルトの音楽のために


 オペラ《ドン・ジョヴァンニ》は、数あるオペラのなかでも世界中で上演されている人気演目の一つ。女と見れば近づかずにいられない無類の女たらしが、最後には地獄に落ちるというこの物語に、人々はどうして魅了されてしまうのでしょう。

「2000人以上もの女性を次々と騙し、挙句には殺人まで行う非道さをもったこの主人公に、普通なら誰も共感することはできない。それなのに、多くの人がドン・ジョヴァンニに対して、抗うことのできない魅力を感じるのは、モーツァルトの音楽が与えたものなのだ」というのは今回上演される《ドン・ジョヴァンニ》の演出家カスパー・ホルテン。このコンセプトのもとに、2014年2月に新演出初演が行われました。

 次々と書き込まれていく女性の名前が舞台全面を埋め尽くす幕開きをはじめ、この演出では全編を通してプロジェクション・マッピングが場面の状況や登場人物たちの心情を表すために効果的に用いられます。また、大がかりな2階建てのセットを回転させることによって、場面転換も幕を閉めることなくスムーズに進められます。流れるように展開していく音楽を大切にした演出に、観る者は物語に自然に引き込まれていくことになります。
 “音楽を大切につくられた演出”であることに加え、日本公演には楽しみな歌手が顔を揃える点でも期待が高まります。

 まず主役ドン・ジョヴァンニのイルデブランド・ダルカンジェロ。艶のある声質と巧みな表現力に加え、色気漂う容姿も併せ持ったダルカンジェロは、すでにこの役を演じては“現代最高”の異名をもっているのです。ドン・ジョヴァンニと行動を共にするレポレロは従者という設定ですが、演出によっては同士や悪友としてのキャラクターが押し出されることもあります。この演出では、従者という上下関係より同士的性格が強め。1975年ベルガモ生まれのアレックス・エスポージトはモーツァルトとロッシーニのスペシャリストとして世界中で活躍しています。なかでもレポレロは当たり役の一つ。このプロダクションの初演でもドン・ジョヴァンニの“悪行”を物語る〈カタログの歌〉をはじめ、実力を発揮しました。

 女声陣でまず目を引くのはドンナ・エルヴィーラ役のジョイス・ディドナート。ロッシーニ歌いとして名を知られる彼女ですが、すでにバロックを含む幅広いレパートリーで活躍。エルヴィーラ役も、世界屈指のメゾ・ソプラノと印象づけたレパートリーの一つです。ドンナ・アンナ役を歌うロシア出身のアルビナ・シャギムラトヴァは、2008年にザルツブルクでリッカルド・ムーティ指揮『魔笛』の夜の女王で一躍注目を集めたコロラトゥーラ・ソプラノ。強さと美しさ、そしてみずみずしさをもつ実力派です。アンナの婚約者ドン・オッターヴィオ役には、これまた世界のトップ・テノール、ローランド・ヴィラゾンが登場します。一時期不調が伝えられましたが、現在は以前に増した美声と確かな技巧で絶好調です。若いカップル、ツェルリーナとマゼットは、1989年ロシア生まれのユリア・レージネヴァとイギリス出身のマシュー・ローズ。レージネヴァは、“歌うために生まれてきた”と言われ、チャーミングな才気を備えた新鋭、ローズはロイヤル・オペラのヤング・アーティスト・プログラムで研鑽を積んだ実力派です。

《ドン・ジョヴァンニ》
指揮:アントニオ・パッパーノ 
演出:カスパー・ホルテン
9月13日(日)3:00p.m.
9月17日(木)6:30p.m.
9月20日(日)1:30p.m.
会場:NHKホール

■予定される主な配役
ドン・ジョヴァンニ : イルデブランド・ダルカンジェロ
レポレロ : アレックス・エスポージト
ドン・オッターヴィオ : ローランド・ヴィラゾン
ドンナ・エルヴィーラ : ジョイス・ディドナート
ドンナ・アンナ : アルビナ・シャギムラトヴァ
ツェルリーナ : ユリア・レージネヴァ
マゼット : マシュー・ローズ

*表記の配役は2015年1月25日現在の予定です。
 病気や怪我などのやむを得ない事情により変更となる場合があります。

(c)ROH_Bill Cooper,2014

(c)ROH_Bill Cooper,2014