ニコライ・ホジャイノフ(ピアノ)

深い精神世界、こだわりのピアニッシモ

(C)Teruyuki Yoshimura
(C)Teruyuki Yoshimura

 パワーと華やかさで魅せようとする若手が次々出現する中で、ニコライ・ホジャイノフはひときわ異彩を放つ。深い精神世界、確固たる信念に基づく繊細な表現。こだわりぬいて鳴らすピアニッシモや静寂を聴かせることができる、貴重な才能だ。
 2010年、18歳の最年少でショパン国際ピアノ・コンクールファイナリストとなり、一躍注目を集めるようになった。その後、2012年にダブリン国際ピアノコンクールで優勝。現在はモスクワ音楽院で学ぶ傍ら、世界各地で演奏活動を行っている。
 ホジャイノフは今年、リサイタルやオーケストラとの共演のため、4度にわたって来日する。今回は2月に続く2度目の来日。読響サマーフェスティバル『三大協奏曲』、そして浜離宮朝日ホールにおけるリサイタルで演奏する。
「初めて日本に降り立ったのは3年前、2011年3月11日のこと。震災による辛い時間を日本の方々と共に経験しました。私にとって日本で過ごす時間はいつも特別です。日本の聴衆のみなさんから受け取るポジティブなエネルギーは、生きてゆくこと、そしてステージで創造するうえでの大きな助けになるのです」
 リサイタルで披露するのは、シューマンとショパンを中心としたプログラムだ。
「シューマンは発明者であり、夢見る人、そして澄んだ心を持った人です。『ダヴィッド同盟舞曲集』はとても好きで、ぜひ日本のみなさんの前で演奏したいと思いました。シューマンの豊かな精神生活が表現されている作品です」
 ショパンもまた、ホジャイノフが敬愛する作曲家の一人だ。その音楽との出会いは、ソフロニツキーやホロヴィッツの演奏によるものだったという。
「ソフロニツキーがショパンについて語った『ショパンはすべてのロマン派の中で最も厳格だ』という言葉が気に入っています。私自身のアプローチにとても近いですね。ショパンは傷つきやすい心の裏に、強く堅固なパーソナリティを持っていました。“泣きの演奏”になるべきではなく、男性的で豊かな感情、そして彼の苦悩や失望を表現することが大切です」
 演奏するのは、中でも彼が「ショパンが精神的な探求を極めた、創造的活動のピークに位置する作品」だと語るピアノ・ソナタ第3番。
「壮大な歌、そしてシンフォニックな魅力にあふれる作品です。この音楽が持つ力は、ベートーヴェンの交響曲第9番に匹敵するものだと思います」
 オペラ、そして詩や古典文学をこよなく愛する22歳。独特の感性で読み解かれた作品が、我々に何を訴えかけてくるだろうか。実演にふれるのが待ち遠しい。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年8月号から)

リサイタル 
8/25(月)19:00 浜離宮朝日ホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 
http://www.japanarts.co.jp

読響サマーフェスティバル2014『三大協奏曲』
円光寺雅彦(指揮) 曲/チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番
8/20(水)18:30 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390 
http://yomikyo.or.jp