
右:神尾真由子 ©Makoto Kamiya
ショスタコーヴィチ生誕120年、N響創立100年の今年、トゥガン・ソヒエフが交響曲第8番を指揮する。2008年の初共演以来、近年は毎年客演し、いまやN響定期の常連となった。トゥールーズ・キャピトル国立管と2019年に第8番をライブ録音。25年にはN響と第7番「レニングラード」を演奏し、そのCDも今年発売された。
ソヒエフは2022年、ロシアによるウクライナ侵攻後、ボリショイ劇場とトゥールーズの音楽監督を即時辞任した。ロシアとフランスの音楽家のどちらかを選ぶことを迫られたという声明には、板挟みの苦悩がにじむ。ショスタコーヴィチの音楽を通じて戦争の惨禍を思い起こさせるのが音楽家の使命だとも記しており、N響とこの第8番に向き合う今回も、彼の意志が音に表れるだろう。
第8番はソ連軍が反転攻勢に転じた1943年の作品だが、決して勝利を声高に祝う曲ではない。長大な第1楽章の激しい衝突から、第2楽章のグロテスクな行進、ヴィオラが導く執拗なトッカータ、葬送のパッサカリアへと連なり、終曲は凱歌を拒むように静謐に消えていく。気心知れたソヒエフとN響は、その重い沈黙に至る道筋をどう描くか。
前半はチャイコフスキー国際コンクール優勝の神尾真由子を迎え、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番。N響とソヒエフの初共演でも、神尾はプロコフィエフの第2番を演奏した。ソヒエフが管弦楽の詩情をどう引き出し、神尾の技巧と歌心に応えるかにも期待したい。
文:平岡拓也
(ぶらあぼ2026年11月号より)
トゥガン・ソヒエフ(指揮) NHK交響楽団 第2074回 定期公演 Aプログラム
2026.11/7(土)18:00、11/8(日)14:00 NHKホール
問 N響ガイド0570-02-9502
https://www.nhkso.or.jp

平岡拓也 Takuya Hiraoka
音楽ジャーナリスト。1996年生まれ。慶應義塾大学文学部でドイツ語圏の文学・音楽を学ぶ。『音楽の友』『MOSTLY CLASSIC』などの音楽誌、複数のWEBメディア、在京オーケストラのプログラムにコンサート評やインタビュー、プログラムノートを執筆。海外アーティストへのインタビューも多数手がけ、近年はアジア圏のオーケストラを中心に、地域の文化的・歴史的背景も視野に入れた取材・執筆を継続している。

