
ドイツ・ピアノ界の正統を体現する巨匠、ゲルハルト・オピッツが東京オペラシティ コンサートホールに登場する。ヴィルヘルム・ケンプに師事し、その遺志により後継者として音楽的伝統を託された彼は、1977年のルービンシュタイン国際コンクール優勝を機に世界的評価を確立。以来、ベートーヴェン、ブラームス、シューベルトらドイツ・オーストリア音楽の全曲演奏を各地で重ねてきた。指揮者リッカルド・ムーティからの信頼が厚く、2016年にはウィーン・フィルとの共演でザルツブルク音楽祭に登場するなど、まさに円熟の境地にある。日本では1994年のNHKの放送番組で人気に火がつき、ソナタ全曲演奏会や連続演奏会のたびに熱心なファンを集めており、彼自身屈指の親日家でもある。
今回のプログラムは、ドイツの二人の巨匠の対話とも言える構成だ。ベートーヴェンがウィーンで存在感を強めつつあった時期に書いた「悲愴」「月光」の劇的な二大ソナタに、ブラームスが20歳の頃に書いたソナタ第3番と、60歳の円熟期に生まれた「6つのピアノ小品」作品118とを組み合わせる。若き情熱と晩年の諦念、時を超えた二つの精神が、オピッツの深く重厚な音によって一夜のうちに響き合うはずだ。ベートーヴェンからブラームスへと受け継がれたドイツ的な精神性を、まさにその系譜を継ぐ演奏家自身の手で辿る、またとない機会でもある。齢70を超えてなお深みを増す巨匠オピッツのいまを確かめることのできる夜になるだろう。
文:飯田有抄
(ぶらあぼ2026年11月号より)
ゲルハルト・オピッツ ピアノ・リサイタル
2026.11/25(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問 パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831
https://www.pacific-concert.co.jp
他公演
11/7(土) 大阪/ザ・シンフォニーホール(06-6453-2333)

飯田有抄 Arisa Iida(クラシック音楽ファシリテーター)
音楽専門誌、書籍、楽譜、CD、コンサートプログラム、ウェブマガジン等に執筆、市民講座講師、音楽イベントの司会等に従事する。著書に「ブルクミュラー25の不思議〜なぜこんなにも愛されるのか」「クラシック音楽への招待 子どものための50のとびら」(音楽之友社)等がある。公益財団法人福田靖子賞基金理事。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Macquarie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。
