困難の先にある再生の響き! 中井恒仁&武田美和子(ピアノデュオ)が奏でる「英雄」プログラム

 卓越した技術と表現力によってピアノデュオアンサンブル界を牽引する中井恒仁&武田美和子。つねに意欲的なプログラムで聴衆を魅了してきた二人のリサイタルシリーズ「ピアノの芸術」が第9回を迎える。「気高き英雄の魂」と題し、ツェルニー編曲によるベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」を中心に据え、古典からロマン派へと連なるプログラムとなった。

武田「プログラムは毎回本当に悩むのですが、英雄というテーマを軸に、ベートーヴェンとツェルニーの師弟関係、さらにツェルニーからリストへと続く系譜へ発想を広げていきました。そして英雄のもつ輝かしい面だけでなく、困難や苦しみを乗り越えた先にある再生や魂の浄化といった世界観も描きたいのです。このような世界観が、今回選んだ作品には共通していると思います」

 二人は2020年のVol.5でベートーヴェンの「運命」交響曲の連弾版にも挑戦しているが、「英雄」はそれに続く大作となる。

中井「ツェルニーの編曲は音が非常に多く書き込まれていて、原曲を忠実に再現しようという意思が感じられます。華やかな技巧を見せようとするためのアレンジではなく、ベートーヴェンの音楽そのものを伝えようとしているのです。これによってオーケストラで聴いている時には気がつかなかった声部の流れがはっきり見えてきます」

武田「ピアノ1台でありながら、二人で演奏することでオーケストラの構造そのものを身体で体験できる感覚があります。それは連弾の大きな魅力ですね」

 今回も、それぞれのソロ演奏を聴くことができる。武田はリストの「バラード第2番」と「ラ・カンパネラ」、中井はショパン「バラード第1番」と「英雄ポロネーズ」を演奏する。

武田「今回選んだリストの2曲は、どちらも技巧的な華やかさの奥に、宗教観や哲学的な世界があるように感じられます。感情だけではなく、人間の生や死、救いといった大きなテーマが見えてくるので、それを改めて探ってみたいのです」

中井「祖国ポーランドを離れて生き続けたショパンの姿には、ベートーヴェンとはまた違った英雄像があります。『英雄ポロネーズ』へ向かう流れとしてバラードを置くことで、一つの大きな物語が構築できると思いました」

 それぞれの作曲家が異なる形で描いた「英雄」の姿は、単なる勝利や栄光ではなく、困難の先にある精神の高みを示している。その系譜を辿りながら、再生や希望、そして人間の持つ力強さに触れることのできるリサイタルとなるだろう。

取材・文:長井進之介

中井恒仁&武田美和子 ソロ&デュオリサイタル ピアノの芸術Vol.9
2026.11/5(木)19:00 浜離宮朝日ホール
問 プロアルテムジケ03-3943-6677
https://www.proarte.jp


長井進之介 Shinnosuke Nagai

国立音楽大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学に交換留学。アンサンブルを中心にコンサートやレコーディングを行っており、2007年度〈柴田南雄音楽評論賞〉奨励賞受賞(史上最年少)を機に音楽ライターとして活動を開始。現在、群馬大学共同教育学部音楽教育講座非常勤講師、国立音楽大学大学院伴奏助手、インターネットラジオ「OTTAVA」プレゼンターも務める。
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