11月、待望の来日! クリスティアン・ティーレマンが語るシュターツカペレ・ベルリン――受け継ぐ響き、変わりゆく解釈

クリスティアン・ティーレマン ©Stephan Rabold

 10月14日、ベルリン国立歌劇場は、クリスティアン・ティーレマンの音楽総監督としての契約を2034年7月まで延長すると発表した。2024年に始まったティーレマンとシュターツカペレ・ベルリンの歩みは、これからも長く続く。11月のアジアツアーを前に、マエストロに楽団の持ち味や今後の構想、今回のプログラムについて訊ねた。

暗い響きに秘めた柔軟性

――この楽団の持ち味は何でしょう。今後、どのような音楽に取り組みたいですか。

 何世紀にもわたり歴史を重ね、音楽文化を育んできた、真に伝統ある楽団です。やや暗めで、自在に表情を変えられる響きと、幅広い音楽に応える柔軟性を持っています。ウィーン古典派からマーラー、シュトラウスに至る中核的なレパートリーを大切にしながら、新しい領域も探りたい。手始めに「軽音楽」を中心とする演奏会を開き、オペレッタやラジオ・映画音楽も一緒に演奏してきました。意外に思われるかもしれませんが、実に魅力的な試みです。
 今後はメンデルスゾーンにもいっそう光を当てます。もちろん、ベートーヴェン、ブラームス、ブルックナーも欠かせません。以前から構想していたリストの交響詩とシュトラウスの管弦楽伴奏歌曲、それぞれの全曲演奏も、この楽団と実現できるのは嬉しい限りです。オペラではワーグナーとシュトラウスの大作に加え、近いうちにフンパーディンクの童話オペラにも取り組みます。

シュターツカペレ・ベルリンのメンバーとともに ©Andreas Labes

――今回の日本公演でも取り上げる「アルプス交響曲」で、繊細な色彩と透明感を引き出すために、何を最も大切にしていますか。

 シュトラウス最後の交響詩であり、この分野で積み重ねてきた経験の集大成です。どの楽器にも技術的な難所があり、指揮者にも楽団にも大きな課題を突きつけます。およそ45分のあいだに数多くの場面が現れ、その一つひとつに固有の響きが必要です。シュトラウスは管弦楽法のあらゆる手段を使い、豊かな音色の組み合わせによって光と影を描き分けました。私がこれまでにも増して大切にするのは、響きの透明さです。
 「日の出」には、圧倒的な響きと輝きが求められます。一方、音量を抑えながらも緊張感を保つ箇所もある。かすかにしか聴こえない音から壮大な爆発まで、強弱の幅を余さず生かしたい。離れた場所に配置された金管が加わる狩りの場面や、穏やかな牧草地を鮮やかに描き、対照をなす嵐ではオーケストラの力を解き放ちます。そうした壮観な場面のほかにも、この作品には「隠れた」美しさが数多くある。静かで内省的な箇所にも、同じように耳を傾けてほしいですね。

――長年指揮してきた作品の解釈は変わりますか。変わらない核心もあるのでしょうか。

 出発点は、演奏家も指揮者も従うべき楽譜を丁寧に読み解くことです。そのうえで生まれる音と表現には、明確な構想がある一方、変化する余地もあります。同じ演奏は二度とありません。長年親しんだ作品でも、ホールの音響やその場の空気、共演者によって演奏は変わる。その都度、新鮮な解釈を築くことが不可欠です。
 ブルックナーの交響曲※は、これまでも多くの優れた楽団と演奏してきましたが、シュターツカペレ・ベルリンと取り組むなかで新たな道筋を見いだしました。作品の核心は揺るがぬ拠り所です。一方、テンポや強弱、音色には幅があり、まったく同じ演奏を再現することはできませんし、そうすべきだとも思いません。そこから一回ごとの演奏に緊張感が生まれる。それが私には刺激的です。よく知る作品と、毎回、思いがけない光のもとで出会い直すのです。

※来日公演では第4番「ロマンティック」を演奏

©Claudia Höhne

信頼する二人のソリストとともに日本へ

――「四つの最後の歌」で共演するカミラ・ニールンドと、モーツァルトのピアノ協奏曲第21番を弾くルドルフ・ブッフビンダー。それぞれの魅力を聞かせてください。

 二人とは長年、信頼し合える関係を築いてきました。ニールンドは声の美しさと強い表現力を兼ね備え、息の長いフレーズを描きながら、言葉と音楽をひとつにできる歌手です。歌う言葉を深く理解し、どう表現すべきかを心得ている。《ばらの騎士》の元帥夫人、《影のない女》の皇后、そしてイゾルデとして、新たな基準を打ち立てました。これからも共演が楽しみです。
 ブッフビンダーは、何十年にもわたって世界の舞台に立つ、伝説的なピアニストです。とりわけベートーヴェンの解釈で高く評価されています。今回のモーツァルトの協奏曲でも、私たちは同じリズムを感じ、ほとんど本能的に呼吸が合う。言葉を交わす必要がないほどです。彼がシュターツカペレ・ベルリンと初めて共演したのは意外にもごく最近ですが、早くも一緒に大きなツアーへ出かけます。これほど経験豊かで多才な二人と演奏できるのは、楽団にとっても大きな喜びでしょう。

左:カミラ・ニールンド ©Shirley Suarez Photography
右:ルドルフ・ブッフビンダー ©Marco Borggreve

――日本の聴衆へメッセージをお願いします。

 日本の聴衆は開かれた姿勢を持ち、知識が豊かで、好奇心に満ちています。日本の優れた楽団や、各地を訪れる海外の楽団の演奏を通じて、ベートーヴェン、ブラームス、ブルックナーにも親しんでいる。日本で指揮するたび、音楽を演奏し、聴くことへの喜びと情熱を感じます。
 シュターツカペレ・ベルリンは1970年代から繰り返し来日してきました。最初はオトマール・スウィトナー、その後はダニエル・バレンボイムとともに。二人とも私が敬愛する歴代の音楽総監督です。その伝統を受け継ぎ、大陸を越えた交流を大切にしたい。いまの世界情勢を考えれば、その意義はかつてなく大きいでしょう。私たちも人々のあいだに橋を架け、日本の皆さんと刺激に満ちた出会いを重ねていければと思います。

文:平岡拓也


クリスティアン・ティーレマン指揮
ベルリン国立歌劇場管弦楽団 《シュターツカペレ・ベルリン》

2026.11/17(火)、11/18(水)各日19:00 サントリーホール【プログラムA】
♪共演
カミラ・ニールンド(ソプラノ)*
♪曲目
R.シュトラウス:四つの最後の歌*
R.シュトラウス:アルプス交響曲

11/19(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール【プログラムB】
♪共演
ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ)**
♪曲目
モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K.467**
ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」

問:テンポプリモ03-3524-1221
https://tempoprimo.co.jp

他公演
11/15(日)ミューザ川崎シンフォニーホール(044-520-0200)【プログラムB】
※公演により出演者、プログラムは異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。


平岡拓也 Takuya Hiraoka

音楽ジャーナリスト。1996年生まれ。慶應義塾大学文学部でドイツ語圏の文学・音楽を学ぶ。『音楽の友』『MOSTLY CLASSIC』などの音楽誌、複数のWEBメディア、在京オーケストラのプログラムにコンサート評やインタビュー、プログラムノートを執筆。海外アーティストへのインタビューも多数手がけ、近年はアジア圏のオーケストラを中心に、地域の文化的・歴史的背景も視野に入れた取材・執筆を継続している。