
Lucas & Arthur Jussen
ピアノ
一人より、二人で弾くときのほうが自由になれる
10代の頃から活躍し、鮮やかなテクニックと表情豊かな音楽表現で、ピアノ・デュオの魅力を世界中に伝えるオランダの兄弟デュオ、ルーカス&アルトゥール・ユッセン。1993年生まれと96年生まれという3歳違い。どちらも5歳でピアノを始め、2005年からは揃ってマリア・ジョアン・ピリスのもとで学び、やがてデュオとして注目を集めるようになった。そんな彼らが、東京芸術劇場の人気シリーズ「VS」に登場する。
二人はとても仲が良いが、明るくフレンドリーで自由奔放な兄のルーカスと、落ち着いた雰囲気で理論派だという弟のアルトゥールとは、異なるキャラクターを持つ。
アルトゥール「僕たちは似ているところもたくさんあって、関心を持つこと、好きなこと、そして人生における物事の優先順位のような価値観はとても近い。一方で性格は違って、兄は自由だし、人の気持ちを敏感に感じ取り、気にかけるべき人がいればすぐに気づく、とても社交的なタイプ。一方の僕は、堅実なやり方を好むタイプです。わかりやすい例を挙げるなら、学生時代のテスト勉強など、僕は1週間前から少しずつ取り組むけれど、ルーカスは前日に一気に追い込むほう。でも結果的に成績は同じなんです。だから同じ作品に取り組む時も出発点が違って、でも最後は同じところにたどり着きます」
ルーカス「アルトゥールも社交的ですが、より繊細なところがあると思います。僕たちは普段から、片方が疲れたり落ち込んだりしているときはもう片方が励まして、一緒に練習したりジムに行ったりします。本番中も同じで、相手の調子がいまいちだと察知したら自分ががんばるだけでなく、相手の気持ちを変えるような演奏、体の動きや表情を自然と心がけます。そうやってお互いにさまざまな場面で刺激を与え、カバーしあっているんです」

今回は「ピアノ・デュオのレパートリーが持つさまざまな世界を知ってほしい」という想いで、メンデルスゾーン、シューベルト、ラヴェル、そしてメインにストラヴィンスキー「春の祭典」というバラエティに富んだプログラムを選んだ。前半2曲を連弾、後半2曲を2台ピアノで聴かせる。
アルトゥール「とても親密で、暗く、どこか壊れやすい感覚の中に入ることになるシューベルトの『幻想曲』。それと同じ公演でストラヴィンスキーの『春の祭典』を弾くことで、作品の鮮烈さやクレイジーさがよりはっきり浮かび上がるでしょう。どうやって発明して紙に書き留めたのか不思議に思うほど天才的な作品です」
パワーのある二人が奏でるダイナミックな「春の祭典」には、期待せずにいられない。
ルーカス「かなりの回数演奏しているので、さまざまなニュアンスを込めて自由な表現ができます。そして、こうして異なる作曲家の対照的な作品を並べることで、ジェットコースターのように起伏のあるさまざまな感情を表現したいと思いました。コンサートのプログラムというものは、ある意味人生のようですね」
それぞれにソロで活動することもある。相手に合わせる必要のないソロのほうが自由に思えるが、彼らにとっては「一人で弾くときより、二人で弾くときのほうがより自由になれる」という。
アルトゥール「デュオとして強い絆を感じていますし、旅先で素晴らしい場所に行っても一人だと寂しい。二人で素晴らしい音楽や風景を共有できるほうが幸せですね」
ルーカス「お互いの音楽をリスペクトして、相手のほうが高いところにいると思って努力を続けていられるのも良い演奏につながっていると思います。ネガティブな意味の“VS”ではなく、刺激をし合う間柄ですね。ちなみに対決するのはテニスのときだけかな。僕たちは日本の選手のケイ・ニシコリが好きで応援していますよ!」
30代となり、それぞれの生活を送る中でもちろん変化はあるが、「顔を合わせればすぐにいつもの二人に戻る」という。息が合うのは当然、その先にあるものを追求した表現で、ピアノ・デュオの醍醐味を教えてくれるだろう。
取材・文:高坂はる香 写真:中村風詩人
(ぶらあぼ2026年11月号より)
芸劇リサイタル・シリーズ「VS」Vol.11
ルーカス&アルトゥール・ユッセン
2027.1/23(土)18:00 東京芸術劇場 コンサートホール
出演/ルーカス&アルトゥール・ユッセン(ピアノ)
曲目/メンデルスゾーン:アンダンテと華麗なるアレグロ op.92 ★
シューベルト:幻想曲 D940 ★
ラヴェル:ラ・ヴァルス ♦
ストラヴィンスキー:春の祭典(2台ピアノ版)♦
★連弾 ♦2台ピアノ
問:東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296
https://www.geigeki.jp

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/
