ミヒャエル・ザンデルリンク(指揮) 読売日本交響楽団

若きサラブレッドが聴かせる伝統のサウンド

 旧東独の名匠クルト・ザンデルリンクは読響の指揮台にもたびたび登場し、名誉指揮者として大きな足跡を残した。その息子たちのうち上の2人はすでに指揮者として活躍しているが、三男のミヒャエルは早くからゲヴァントハウス管などで要職を務めるチェリストとして名高かった。2000年代に入り、一足遅れて指揮活動を始めるとめきめきと頭角を現し、2011/12シーズンからはドレスデン・フィルの首席指揮者として活躍している。昨年の両者の来日公演を聴かれた方も多いだろうが、今回は日本の楽団、それも父が活躍した読響への初登場だ。
 東欧から東独圏にかけての、地域色を打ち出したプログラミング、キャスティングが興味深い。ルーマニアの民謡をもとにしたバルトークの「トランシルヴァニア舞曲」は、エスニックな味わいの前菜だ。次のブルッフ「ヴァイオリン協奏曲第1番」でソロを弾くカトリン・ショルツも旧東独圏出身、ミヒャエルが学んだベルリン・ハンス・アイスラー音大を修了している。そこでの彼女の師ヴェルナー・ショルツは、ドレスデン・フィルの元コンマスだ。カトリンも楽譜を誠実に伝える正攻法をその基本スタイルとしているが、キャスティングに隠されたこうしたつながりは、ドイツ音楽の伝統を今に伝える地下水脈として、演奏にも滲み出てくるだろう。
 メインはブラームスの「交響曲第2番」。やはり父クルトの得意とした作曲家だが、この指揮者界の若きサラブレッドは、重厚な渋みで聴き手をうならせる東独の伝統を踏まえつつも、新鮮で柔軟な演奏を聴かせてくれるだろう。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2014年5月号から)

第8回 読響メトロポリタン・シリーズ
★5月30日(金)・東京芸術劇場
第72回 みなとみらいホリデー名曲シリーズ
★5月31日(土)・横浜みなとみらいホール
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