アレクサンドル・ラザレフ(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

猛々しくも繊細な将軍、怪作&快作に挑む


 ラザレフ&日本フィルの定期演奏会は、いま最も聴き逃せないコンサートの一つだ。当コンビの充実ぶりは、もはや周知の事実だが、今年3月定期のスクリャービンのピアノ協奏曲とショスタコーヴィチの「レニングラード」交響曲はもう圧巻の一語。激烈なダイナミズムやMAXの燃焼度と、精緻な表情付けや精妙なバランスを共生させたラザレフの凄み、クリアにして圧倒的エネルギーを放つ音楽に、心底感嘆させられた。
 5月定期も、そうした特質が最大限に生きる、心憎いプログラムが組まれている。まずはスクリャービン特集の最終回として、交響曲第5番「プロメテウス」が登場。同曲は、巨大編成の上に独奏ピアノ、オルガン、歌詞のない混声合唱(晋友会合唱団)を要するだけあって、演奏される機会は多くない。有名な「法悦の詩」ではなく、あえて第5番を取り上げた勇断——しかもピアノには日本屈指のヴィルトゥオーゾ・若林顕が起用される——を讃えたいし、むろん演奏も期待大。いわゆる神秘主義のもと、色彩までも音楽に取り込もうとした意欲作が明快かつ壮絶に鳴り響く、稀有の瞬間を体験できるだろう。他の演目も妙味十分。リストの変化に富んだ交響詩「プロメテウス」は、さらに生演奏が稀少であり、同題材作品の比較もまた興味深い。そしてラヴェルの鮮烈な名作「ダフニスとクロエ」第1、第2組曲。これはスクリャービン作品とまったく同時期に書かれ、和声など相通じる面があり、歌詞のない混声合唱も用いられる。かくしてお互い関連性をもち、全てに緻密さと爆発力の共生がモノを言う当公演。もちろん必聴だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2014年5月号から)

第660回東京定期演奏会
★5月30日(金)、31日(土)・サントリーホール Lコード:39174
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
http://www.japanphil.or.jp