柴田俊幸(フルート/フラウト・トラヴェルソ/たかまつ国際古楽祭芸術監督)

瀬戸内の空気と潮風のなかでオープンマインドな音楽を

(c)Jens Compernolle

 「古楽は反骨精神」
 ユニークな視点を決然と語るのはベルギー在住のフルート奏者・柴田俊幸。2017年から故郷の香川で「たかまつ国際古楽祭」 をプロデュース。現在は芸術監督を務める。

 ニューヨークやシドニーの音大を経てアントワープに留学した時点では、古楽を意識したことなどなく、ベルギーが古楽の本場だということ自体まったく知らなかったのだそう。

 「ある時、フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮の『マタイ受難曲』を聴きました。なんだこれは! この世のものとは思えない美しい響き。すっかり感激して。それが古楽との出会いです」

 そこからフラウト・トラヴェルソを学び始めてまだ7年ほど。にもかかわらず、ラ・プティット・バンドやB’Rock オーケストラなどなど、古楽王国ベルギーの名だたる古楽アンサンブルに次々と参加する実力の持ち主。急速に存在感を増している注目の奏者だ。

 「初めてトラヴェルソを聴いた時はヤラレました。これこそ自分が追い求めていたフルートの音だと思って。でも古楽の先駆者たちは、当時の音楽表現へのアンチテーゼ、反骨精神から始まったことも無視できません。既成の価値観や権威を疑って、仕切りをなくすために始まった。僕は、古楽のアカデミックな面とともに、そういう精神性にひかれたんだと思います。だからこそ、古楽をまるで秘密結社みたいに感じてもらいたくはないんです」と唱える。

 普段はロックしか聴かない友だちが「意外とノリノリで楽しい!」と言ってくれるのが一番うれしいという。

 だから実際、彼の主宰する「たかまつ国際古楽祭」は、音楽の時代の垣根も、ジャンルの仕切りも取り払った、じつにオープンな精神に溢れている。4回目の今年は9月25日、26日の2日間。中世からベートーヴェン、シューベルトまで幅広い時代の音楽を、小倉貴久子(フォルテピアノ)、西山まりえ(ゴシックハープ)、鈴木大介(ギター)、さらにはジャズ・ピアニストのスガダイロー、雅楽芸人(!?)のカニササレアヤコといった異色の顔ぶれとともに楽しもうというもの。香川県文化会館、高松市美術館、瀬戸内海に浮かぶ男木島、美藻庵・晴松亭(茶室)など市内のさまざまな施設を会場にして開催することで、高松という街の魅力も知ってもらいたいと意気込む。不覚にも、四国でこんなに面白そうな企みが行われていたとは! 開催の頃には、躊躇なく県境を超えて往来できる状況になっていることを願いたい。讃岐うどんもあるし!
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2021年9月号より)

第4回 たかまつ国際古楽祭
2021.9/25(土)、9/26(日)
香川県文化会館、高松市美術館、男木交流館、中條文化振興財団(茶室 美藻庵・晴松亭)、穴吹邸 他
問:たかまつ国際古楽祭実行委員会080-5665-7050 / takamatsu.kogaku@gmail.com
https://mafestivaltakamatsu.com
※新型コロナウイルス感染拡大に関連する現状を鑑み、また、開催地である香川県にまん延防止等重点措置が適用されたことから、開催内容が一部変更となりました。また、チケット発売日は9/13(月)に延期となりました。(9/7主催者発表)