久石 譲(作曲・指揮)

現代曲同様のアプローチでクラシックを活性化したい

(C)Omar Cruz


 著名作曲家にして近年指揮活動も顕著な久石譲は、昨年9月から新日本フィルハーモニー交響楽団のComposer in Residence and Music Partnerに就任。今年9月には創立50周年イヤー幕開けの定期演奏会に登場する。
 2004年に結成した「新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ」のみならず、同楽団との関係は極めて長い。

 「もう30年くらいの付き合い。リハーサルの進め方などすべてを教わりましたし、メンバーを思い浮かべながら曲を書いてもきました。ですから僕にとっては完全にベースとなるオーケストラです。魅力は音が上品なこと。音が鳴った瞬間に人を惹きつける温かさやロマンがあり、最近は力強さも加わっています」

 むろんポスト就任によってより深い関係を築くことになる。
 「今まで以上に継続した音楽作りができますね。いわば点から線になる。これを機に今一度クラシック作品にチャレンジすることができます。現代曲を演奏するオーケストラはありますが、後に登場するクラシック作品は昔流のまま演奏することが多いです。そうではなく、現代曲で行ったアプローチでクラシックを演奏することも必要だと思うのです。例えば僕の曲はミニマルがベースなのでリズムが厳しくなる。その厳しいリズムをクラシック作品に持ち込んだらどうなるのか? そうしたアプローチを今後一緒にやっていきたいと思っています」

 9月はまさにそれを体現するプログラム。創立50周年委嘱作品=自作の世界初演と、マーラーの交響曲第1番「巨人」の組み合わせだ。
 「『巨人』はタイトルも含めてシーズンの開幕に相応しいと思いますし、現代曲とクラシックを組み合わせたい、現代曲を演奏しないとクラシックは古典芸能になってしまうとの思いもあります。またマーラーが控えている状態でその前の曲を書くのは、作曲家として非常に燃えますし、内容も必然的に影響はあると思います」

 新作は取材の時点(7月後半)でほぼ完成している。
 「最終的なオーケストレーションの段階です。曲は交響曲第3番(仮)で、全3楽章約35分の作品。第2番と姉妹作ですが、自然をテーマにしたような第2番に比べると内面的で激しく、リズムはより複雑になっています。加えてミニマル的な構造の中にもう一度メロディを取り戻したいとも考えました。編成は後半のマーラーに合わせた4管編成でホルンは1本少ない6本。自分だけ見劣りしたくないというのは作曲家の性ですね。また作曲家は皆そうですが、大編成になると逆に弦の細分化など細部にこだわるようになります。あと50周年は意識しながらも、現況から祝典風ではなく力強さを織り込んだつもりです」

 「巨人」は海外で数回指揮しているが、日本での演奏は初めてだという。
 「マーラーは独特なんですよ。どこまでも歌謡形式で、対位法的な動きもその中でなされていますから、それをどう整理するか? また僕自身の作品と並べて演奏することによってどれだけ新しいマーラー像を描けるか? がカギになります。あとはユダヤ的なフレーズの扱い。実は第3楽章を重視していて、そうした部分を東欧ユダヤ系の酒場のバンドのように演奏したい。そして第4楽章のめくるめく激しさには、誰もが書くのに苦労する交響曲第1番を見事にまとめる物凄いエネルギーを感じます。僕はクラシックを演奏するとき、作曲家が書く過程を一緒に辿るんです。『ああこの人はここで苦しんだな』などと推理小説のようにスコアを読んでいます。でも『私はこれを書きたい』という気持ちの強さが一番大事なのではないかと思う。その点でマーラーは別格に感じます」

 マーラーは「今後も取り上げたい」とのことだし、「新たな別企画の予定もある」というから楽しみだが、何よりまず今回の公演が重要な第一歩だ。
 「シーズンのオープニングを任され、作曲も依頼され、マーラーも演奏させてもらう。作曲家で指揮もする僕としてはこれ以上ない舞台を用意していただき、心から感謝しています。それに僕と新日本フィルは“音を出す喜び”をもう一回取り戻したい。人と一緒に音を出すことが楽しい─これがやはりオケの原点ですよね」

 話を聞くだに期待が増す9月の定期に、ぜひとも足を運びたい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2021年9月号より)

Profile】
国立音楽大学在学中よりミニマル・ミュージックに興味を持ち、現代音楽の作曲家として出発。映画『風の谷のナウシカ』以降、国内外の話題作の映画音楽を多数手掛け、日本アカデミー賞最優秀賞音楽賞や紫綬褒章受章を含む数々の賞に輝く。近年は指揮者としても世界各地で精力的に演奏するほか、最先端の音楽を紹介するコンサート「MUSIC FUTURE」や「FUTURE ORCHESTRA CLASSICS」を主宰し、作曲家として“現代(いま)の音楽”を伝える活動も精力的に行っている。国立音楽大学招聘教授。新日本フィルハーモニー交響楽団 Composer in Residence and Music Partner。日本センチュリー交響楽団首席客演指揮者。

【Information】
新日本フィルハーモニー交響楽団 第637回 定期演奏会

〈トリフォニーホール・シリーズ〉
2021.9/11(土)14:00 すみだトリフォニーホール
〈サントリーホール・シリーズ〉
2021.9/12(日)14:00 サントリーホール

久石譲:新作 (新日本フィル創立50周年委嘱作品/世界初演)
マーラー:交響曲第1番 ニ長調 「巨人」

問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 
https://www.njp.or.jp