安達真理(ヴィオラ)

リラックスした雰囲気で非日常の世界へ誘います

 インスブルック交響楽団副首席奏者を務めて帰国後、ソロや室内楽で活躍し、4月から日本フィルハーモニー交響楽団の客演首席奏者の任にもあるヴィオリスト・安達真理。現在、パーヴォ・ヤルヴィ率いるエストニア・フェスティバル管弦楽団のメンバーでもある国際派の彼女が、Hakuju Hallのリクライニング・コンサートに登場する。

 ヴィオラの魅力と可能性を様々な形で伝えている彼女らしく、今回も公演のテイストに即したプログラムを用意している。

 「1時間のリクライニング・コンサートなのでリラックスしていただきたいですし、15時と19時30分の2公演あるので、昼間ひと息つきたい時にも、仕事終わりのホッとした時にも素直に楽しめるプログラムを考えました。また音楽の楽しさの一つは、非日常の世界に一瞬で連れ去ってくれること。そこでブロッホの異国情緒溢れる作品をメインに据えました」

 このスイス生まれのユダヤ系作曲家による「ヴィオラとピアノのための組曲」は、実に興味深い作品だ。
 「訪れたことのない極東の国々へのブロッホの想像から生まれた音楽。当初は4つの楽章に『ジャングルで(原始的な世界)』『グロテスク(類人猿ステージ)』『夜想曲』『太陽の地(中国)』の表題が付されていて、ジャワの神秘的な世界や妖艶な世界、中国の華やかな世界等が展開されます。自由な感性と漂う香りが素敵で想像力をかきたてられる、私の大好きな曲です」

 プログラムの約半分を占める同曲の前後にも魅力的な作品が並ぶ。
 「最初のジット(1850年チェコ生まれの作曲家)の曲は、何かの記憶がフワッと甦ってくるような、非日常の世界への導入に相応しい作品です。ブロッホの後の加藤昌則さんの『未在の庭』は、心にスーッと入ってくる日本的な曲、最後のピアソラの『ル・グラン・タンゴ』は、色気や躍動感やたゆたうような趣を湛えた曲で、それぞれ違った非日常感を味わうことができます」

 今回は入江一雄のピアノも心強い。
 「知的で卓越した技巧の持ち主。芯がしっかりした説得力抜群の演奏をされるのでとても信頼しています。特にブロッホの作品はピアノがテクニカルで華やかですから、彼の音がHakujuの空間に響いたら、さぞかし楽しいでしょうね」

 まさにその300席のホールで、渋くも豊潤なヴィオラの音色を味わえるのは嬉しい限りだ。
 「音の通り方が“純”で、とても弾きやすいホール。今回は音の質感や私自身の気持ちがストレートに伝わると思います」

 ヴィオラの魅力は「心の隙間にスッと入ってくるような“共感力の高さ”」と語る彼女。1時間に凝縮されたプログラムを親密な空間でリラックスしながら満喫できる本公演は、この楽器の魅力を身近に感じる絶好の機会だ。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2021年8月号より)

第161回 リクライニング・コンサート 安達真理 ヴィオラ・リサイタル
2021.9/16(木)15:00 19:30 Hakuju Hall 
問:Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700 
https://www.hakujuhall.jp