フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2021

今年も生音+生配信の両方で楽しむ
日本最大のオーケストラ・フェスティバル

ミューザ川崎シンフォニーホール内観 (C)青柳 聡

 ミューザ川崎シンフォニーホールが主催する「フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2021」が7月22日から8月9日にかけて開催される。同音楽祭の柱となるのがプロ・オーケストラの競演。11のプロ・オーケストラが趣向を凝らしたプログラムを用意する。今年は首都圏の9団体に加えて、ゲストとしてオーケストラ・アンサンブル金沢および京都市交響楽団が招かれ、一段と顔ぶれが多彩になった。注目ポイントを挙げてみよう。

 まずは川崎市をフランチャイズとし、サマーミューザのホスト・オーケストラを務める東京交響楽団。音楽監督ジョナサン・ノットによるひねりの効いたフランス・プログラムで開幕を飾る(7/22)。ラヴェルのピアノ曲「夜のガスパール」をコンスタン編の管弦楽版で聴く機会は貴重。しかしもっと貴重なのはヴァレーズの「アルカナ」だ。大編成のオーケストラがくりだす激烈な音響は初演時に「音の恐怖」と評されたが、作曲者は「喜びの音楽」と述べたといわれている。ノットはその「喜び」を引き出してくれるはず。さらに萩原麻未の独奏によるラヴェルのピアノ協奏曲と、ガーシュウィンの「パリのアメリカ人」も楽しめるというぜいたくさ。

気鋭の指揮者と人気ソリストたちの競演

 東京交響楽団はフィナーレコンサート(8/9)にも登場する。こちらは同楽団正指揮者に就任した気鋭、原田慶太楼がジョン・アダムズの「アブソルート・ジェスト」(共演はカルテット・アマービレ)、吉松隆の交響曲第2番「地球にて」ほかを指揮。こちらもノットに負けずに意欲的なプログラムで、ホスト・オーケストラの攻めの姿勢は際立っている。

 オーケストラ・アンサンブル金沢を率いるのは桂冠指揮者の井上道義(7/25)。名コンビが帰ってくる。プログラムはシューベルトの交響曲第4番「悲劇的」、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番(独奏は神尾真由子)、古典交響曲。室内オーケストラならではの機敏で小気味よいアンサンブルを満喫できるだろう。

 東京都交響楽団が指揮台に迎えるのはアジアの新星、カーチュン・ウォン(7/26)。コロナ禍のなか、日本各地のオーケストラに客演して人気も急上昇中の若きマエストロだ。チャイコフスキーの「ロココ風の主題による変奏曲」(チェロ独奏は岡本侑也)、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」ほかを指揮する。カーチュンがまっすぐでポジティブなエネルギーを作品に注ぎ込む。

 読売日本交響楽団は、首席客演指揮者の山田和樹が初登場の予定だったが、コロナ禍の入国制限のため欧州から帰国できず、無念の降板となる。
 代わって登場するのは、古楽界の大巨匠で世界一流楽団にも多く客演する鈴木雅明。曲目は調整中とのことだが、最新情報はサマーミューザのウェブサイトをチェックされたい。

 NHK交響楽団はオーケストラ全体ではなく、室内合奏団としての参加になる(7/28)。N響第1コンサートマスター篠崎史紀を中心とする名手たちのアンサンブルで、J.シュトラウスⅡ(シェーンベルク編)の「南国のバラ」や、マーラー(K.ジモン編)による交響曲第4番(室内楽版)などが演奏される。大編成のマーラーが室内楽に変身すると、どんな姿を見せてくれるのだろうか。

 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団を率いるのは常任指揮者の高関健(7/31)。スメタナの連作交響詩「我が祖国」全曲に挑む。「我が祖国」といえば第2曲の「モルダウ」がよく知られるが、全6曲を通して聴いたときの感動は格別。ボヘミアの歴史と大自然が壮大な音のドラマを織りなす。

 神奈川フィルハーモニー管弦楽団を指揮するのは鈴木秀美(8/3)。古楽のスペシャリストとして知られる鈴木だが、今回はロマン派プログラム。シューマンのヴァイオリン協奏曲(独奏は郷古廉)、ドヴォルザークの交響曲第8番ほかが演奏される。歴史的視点からロマン派音楽の魅力を問い直す。注目の俊英、郷古のソロも期待を煽る。

初登場のオーケストラによるドイツ・プロ

 京都市交響楽団は初登場(8/4)。黄金時代を築いた常任指揮者兼芸術顧問・広上淳一がドイツ音楽プログラムを披露する。ブラームスのヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲では、黒川侑と佐藤晴真という期待のソリストふたりの共演が実現。来年3月で退任する広上にとって、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」はこのコンビの集大成となるだろう。

 東京ニューシティ管弦楽団は次期音楽監督の飯森範親を迎える(8/5)。マーラーの交響曲第5番は彼らにとって名刺代わりの強烈な一曲となりそう。ハンガリーにルーツを持つ金子三勇士は、バルトークのピアノ協奏曲第3番でソロを務める。

 東京フィルハーモニー交響楽団は首席指揮者アンドレア・バッティストーニが母国イタリアの音楽を並べた(8/6)。メイン・プログラムはレスピーギの交響詩「ローマの松」。壮大な音のスペクタクルが描かれる。『ゴッドファーザー』など映画音楽で知られるニーノ・ロータのハープ協奏曲(独奏は吉野直子)を聴けるのもうれしい。擬古典的で爽快な佳品だ。

 日本フィルハーモニー交響楽団は下野竜也による凝った“文豪”プログラム(8/7)。ウェーバーの《オベロン》序曲、ヴォーン・ウィリアムズの「グリーンスリーヴス」による幻想曲、ニコライの《ウィンザーの陽気な女房たち》序曲、べートーヴェンの劇音楽「エグモント」全曲。キーワードはシェイクスピアとゲーテだ。「エグモント」ではソプラノに石橋栄実、語りに宮本益光を配して、全曲演奏ならではのドラマを伝える。

 ほかに川崎市内にキャンパスを置く2つの音楽大学コンサートには、秋山和慶指揮の洗足学園音楽大学(7/30)と山下一史指揮の昭和音楽大学(8/8)が登場。そして仲道祐子の「イッツ・ア・ピアノワールド」(7/23)、須川展也(サクソフォン)&中野翔太(ピアノ)のデュオ(7/23)、渡辺香津美の「サマーナイト・ジャズ」(7/24)、大木麻理のパイプオルガンによる「真夏のバッハ」(8/1)、「出張サマーミューザ@しんゆり!」での秋山和慶指揮東京交響楽団(8/1)、ヴァイオリンの吉村妃鞠と共演する渡邊一正指揮神奈川フィル(8/8)の2公演といった、もりだくさんのラインナップ。夏の暑さを音楽で吹き飛ばしたい。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2021年7月号より)

フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2021
2021.7/22(木・祝)〜8/9(月・休)
ミューザ川崎シンフォニーホール、昭和音楽大学テアトロ・ジーリオ・ショウワ【配信あり】


《ホール座席券》
ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
ミューザWebチケット http://muza.pia.jp
《オンライン鑑賞券》

7/8(木)発売

問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200 
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/
※各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。