モイツァ・エルトマン(ソプラノ)

今度のリサイタルはカラフルな夕べになるでしょう。

(C)Felix Broede/DG
(C)Felix Broede/DG

 清澄な美声と深い表現力に可憐な容姿を併せ持つソプラノ歌手、モイツァ・エルトマン。2012年のリサイタルをはじめ、日本でも素晴らしい歌声を聴かせている彼女だが、元々はヴァイオリニストを目指していたという。
「6歳からヴァイオリンを習い始めました。同じ頃ハンブルク国立歌劇場の児童合唱団にも入りましたが、声楽の正式なレッスンを受け始めたのは14歳のとき。間もなくコンクールで成果が出るようになり、歌手を目指そうと思いました。ただ声はデリケートですし、どう発達していくかわかりません。ですからケルンの音楽大学では、声楽とヴァイオリンの両方を学び、オーケストラでも演奏しました。そしてベルリンのコーミッシェ・オーパーのオーディションに合格し、歌手の道に進んだのです。でもヴァイオリンを学んだのは歌手としても良かったと思います。オーケストラを理解し、深い関係を築けますから」
 以後、モーツァルト、R.シュトラウスなどを中心に歌い、《ルル》のタイトルロールや現代音楽でも成功を収めている。
「プロの歌手を16年続けてこられたのは、自分に合ったレパートリーを選んできたからでしょう。もっと増やさないのか? とよく聞かれますが、拡大を急ぐのは危険だと思っています。ただ、リートの後には現代もの…といったコントラストを付け、自分の声から異なる音色を引き出すよう心がけています」
 今年6月には、日本での2度目のリサイタルを行う。今回はなんと、超人的名手であるハープの貴公子、グザヴィエ・ドゥ・メストレとの共演だ。
「2年ほど前から何度も共演しています。彼は本当に素晴らしい。ピアノ譜をそのまま弾けますし、もう何でもできます。例えば今回歌うR.シュトラウスの『ひどい天気』はピアニストでも大変なのに、難なく弾いてしまう。それにハープとは思えないほど大きな音で、魔法のようなサウンドを生み出します」
 東京での公演会場は、東京オペラシティと王子ホールだが、内容は全く異なっている。
「前回も両ホールで歌っていますので、特性を考慮し、小型で聴衆が間近な王子ホールではリートを、大きめのオペラシティではオペラ・アリアを多くしました。共に前回と演目が重ならないようにし、もちろんハープとの共演を意識して選びました」
 オペラシティでの公演に絞ると、歌曲は前半がシューベルト、後半がR.シュトラウスの作品。いずれもおなじみの曲が中心だ。
「シューベルトは、モーツァルトと同様にとても内的な音楽で、フレージングがこまやかです。シュトラウスはもっとエモーショナル。直截的でエスプレッシーヴォな表現が可能ですから、このシューベルトからシュトラウスという」流れは、とてもいいと思います」
 オペラ・アリアは、十八番のモーツァルト、サリエリのほか、ベッリーニ、ヴェルディ、プッチーニと彼女には珍しいイタリアの有名アリアが並ぶ。しかも〈慕わしき人の名は〉など、ぜひあの声で聴いてみたい曲や、ハープによる新境地を期待できそうな曲が揃っている。
「ハープとのオペラ・アリアは今回が世界初披露。楽器編成からみて適切な曲、アルペジオで伴奏するような曲を、メストレさんと一緒に選びました。《フィガロの結婚》のアリアは、ピツィカートの部分が合いますし、《カプレーティとモンテッキ》のアリアは元々ハープのソロがあるのでピッタリ。いずれにせよ寄り添って歌える内省的なアリアばかりです」
 今回はコンサート自体がバラエティ豊かだ。
「リートもアリアもハープのソロもありますので、色々なジャンルを一晩で楽しんでいただけます。中でもリートは歌詞が理解できないと難しいのですが、日本の方々は本当によくおわかりですし、私も一語一語を大事にしながら、声で翻訳して伝えるように歌いたいですね」
 今後の予定を聞くと、「ザルツブルク音楽祭で、ウェルザー=メスト指揮、クプファー演出《ばらの騎士》のゾフィーを歌います」と述べた後、「そういえば1998年にコーミッシェ・オーパーの日本公演で、クプファー演出《こうもり》のイーダ役を歌ったわ」と話し、16年前に来日していた新事実(?)が発覚した。
「《イドメネオ》のイリアや、今回アリアを歌うジュリエッタ、ジルダもぜひオペラで歌いたい。それから他の音楽家とのコラボレーションで1つのプログラムを構成する試みや、ジャンルを越えた共演などもやっていきたい。スティングとの共演の話があれば、絶対に断りませんよ(笑)」
 と、先々への思いも膨らむ彼女。こうした新コラボのひとつともいえるメストレとの共演を含めて、今後さらに注目していきたい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2014年3月号から)

モイツァ・エルトマン(ソプラノ)&グザヴィエ・ドゥ・メストレ(ハープ)
デュオ・リサイタル
★4月30日(水)19:00・東京オペラシティコンサートホール Lコード:37360
問・ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp

他公演
4月22日(火)19:00・王子ホール(完売)
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990
4月24日(木)14:00・兵庫県立芸術文化センター
問:芸術文化センターチケットオフィス0798-68-0255
4月27日(日)15:00・京都バロックザール(完売)
問:青山音楽記念館075-393-0011