
右:タマラ・ウィルソン ©Claire McAdams
あれは夢のようなひとときだった。2025年10月、ウィーン国立歌劇場が9年ぶりの来日で上演した《ばらの騎士》のステージのことだ。
これを見事に指揮したのがフィリップ・ジョルダン。シュトラウスの巧緻な管弦楽書法を鮮やかに色づかせつつ、作品の内包する多様なコントラストを温かく円満な調和で包み込んでいった。本オペラが哀切に歌うように、時は無情にも過ぎていくもの。年が変わり、その彼がN響との初共演でまた東京を訪れる。
今夏までの5年間、同名門歌劇場音楽監督を務めたジョルダンは、言わばドイツの歌劇場のたたき上げ。指揮者アルミンを父にもつスイスの音楽一家の生まれで、ドイツ語圏はもちろんフランス語圏でも存分の活躍をみせ、パリ国立オペラ座の音楽監督も務め上げた。
27年からはフランス国立管弦楽団の音楽監督を務め、今後オーケストラ指揮者としての活動に重点を置くとみられるだけに、N響とはまさに時宜を得た初顔合わせとなる。
ワーグナーを得意とするジョルダンは、《ニーベルングの指環》のチクルス上演も手がけてきた。パリ国立オペラ座管弦楽団とは抜粋録音もあり、《神々の黄昏》からの3つの場面はそのクライマックスをなす。「東京・春・音楽祭」でマレク・ヤノフスキとワーグナー探究を積み上げてきたN響と、どのような化学反応をみせるか。ソプラノは彼が推すタマラ・ウィルソン。ライン川の繋がりもあるシューマンの交響曲第3番とともに、ジョルダンのドイツ・ロマン派解釈が綿密に聴かれるだろう。
文:青澤隆明
(ぶらあぼ2026年1月号より)
フィリップ・ジョルダン(指揮) NHK交響楽団
第2057回 定期公演 Aプログラム
2026.2/7(土)18:00、2/8(日)14:00 NHKホール
問:N響ガイド0570-02-9502
https://www.nhkso.or.jp

青澤隆明 Takaakira Aosawa
書いているのは音楽をめぐること。考えることはいろいろ。東京生まれ、鎌倉に育つ。東京外国語大学英米語学科卒。音楽評論家。主な著書に『現代のピアニスト30—アリアと変奏』(ちくま新書)、ヴァレリー・アファナシエフとの『ピアニストは語る』(講談社現代新書)、『ピアニストを生きる-清水和音の思想』(音楽之友社)。そろそろ次の本、仕上げます。ぶらあぼONLINEで「Aからの眺望」連載中。好きな番組はInside Anfield。
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