
右:加久間朋子 ©武藤 章
ジャン=マリー・ルクレール(1697〜1764)。フランス・ヴァイオリン楽派の開祖として名高いものの、同時代のヴィヴァルディやJ.S.バッハと比べ十分に知られてはいない。フランスとイタリアの様式を融合させたこの巨匠の全4巻49曲のヴァイオリン・ソナタを作品1から発表順に全曲演奏する(しかも周辺作曲家の作品も加える)10年がかりのプロジェクト「ルクレール・ボクー」がいよいよ完結する。「古典四重奏団」や「音楽三昧」で活躍するヴァイオリニスト川原千真と、川原と長く共演してきた加久間朋子のデュオによる壮挙だ。最終回にはヴィオールの森川麻子も加わる。
まず、ルクレールの音楽の魅力について、二人に聞いた。
川原「大変な名手で個性的。語彙が豊富だから音形のバリエーションが無尽蔵で、4本の指をフル稼働するよう考え抜かれています」
加久間「C.P.E.バッハはルクレールの通奏低音を数字の読み間違いが発生しやすい例に挙げていますが、慣れると自然に指が動き、ルクレールの通奏低音中毒? になりました」
全曲演奏を通じて見えてきたことは。
川原「全4巻は時代順ではなく、『わかりやすい』順だそうですが、それでも第3巻に入ると新時代の風を感じます。時代転換期の難しい立ち位置にいたと思います」
加久間「第4巻は和声が斬新で、終止形でもサブドミナントの使用が多くなるので旋律移行に影響を与えています。これはルクレール節と呼べるのかも」
演奏会ではピリオド仕様の楽器が用いられているが、利点は何だろうか。
加久間「彼の時代は低音がよく響き、和音が混ざり合う後期フレンチタイプのチェンバロが使用されました。このような楽器でこそ、その和音感も伝わります」
川原「バロック・ヴァイオリンの柔らかくピュアな響きはルクレールの魅力をよく引き出します。その音楽から、時代を守る力と打ち破る力がせめぎ合うエネルギーを感じました」
最後にプロジェクト完結への想いと聴衆へのメッセージを。
川原「ルクレールから離れ難いです。彼の生涯を並走した感じ。最後は数奇な運命を辿るルクレールですが、ヴァイオリンの可能性を尽くした魅力溢れる作品をぜひお聴きください」
加久間「終わってしまうのが寂しいです。彼のヴァイオリン・ソナタは変幻自在で、毎回、通奏低音で支えながら絶句するほどです。一緒に絶句していただきたい!」
取材・文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2026年1月号より)
ルクレール・ボクー 最終回 〜ルクレールと周辺の作曲家 2026〜
2026.2/12(木)19:00 としま区民センター(小)
問:クレアシオン leclair@cre-a-tion.com
https://www.cre-a-tion.com

矢澤孝樹 Takaki Yazawa
1969年山梨県塩山市(現・甲州市)生。慶應義塾大学文学部卒。水戸芸術館音楽部門主任学芸員を経て現在ニューロン製菓(株)及び(株)アンデ代表取締役社長。並行して音楽評論活動を行い、『レコード芸術online』『音楽の友』『モーストリークラシック』『ぶらあぼ』『CDジャーナル』にレギュラー執筆。朝日新聞クラシックCD評選者および執筆者。CD及び演奏会解説多数。著書に『マタイ受難曲』(音楽之友社)。ほか共著多数。
