現代稀なるブルックナーの真髄に浸る
高関健と東京シティ・フィルのコンビが7年目のシーズンを迎えた。東京オペラシティでの定期演奏会の開幕を飾る6月公演の演目は、ブルックナーの交響曲第5番。これはマニアならずとも注目のコンサートだ。
2015年に高関健が常任指揮者に就任して以来、東京シティ・フィルの進化は目覚ましい。緻密な構築で楽曲の本質を表出する名匠のもとでグングンとクオリティをアップ。近年はオーケストラ全体に表現意欲が漲っており、演奏の密度と聴く者に与える充足感の高さにおいて、在京楽団の中でも屈指の存在となっている。その好例ともいうべき名演が、昨年8月のブルックナーの交響曲第8番。スコアに精通した高関と、現・桂冠名誉指揮者である飯守泰次郎のツィクルス等で同作曲家の精髄を会得している東京シティ・フィルが一体となった、濃密で集中力の高い演奏、雄大で重厚な音楽が展開され、当コンビ初のCD化もなされた。
となれば第5番への期待も大きい。この曲は、対位法の巨匠が持てる技術を最高度に発揮した、細密にして荘厳な、大伽藍の如き音楽。交響曲の大家の魅力が集約された“最もブルックナーらしい交響曲”であり、その意味では第8番と双璧をなしている。高関は、オルガン的な響きと堅牢な構成によって“ブルックナーらしいブルックナー”を聴かせる、現代稀なるマエストロ。その特質が第5番で最大限に生きるのは言うまでもない。高関の精緻かつ大スケールのアプローチと、それに応える東京シティ・フィルの気迫に満ちたサウンドが生み出す壮麗な世界=ブルックナーの真髄を、ぜひとも体験したい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2021年6月号より)
第342回 定期演奏会
2021.6/16(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002
https://www.cityphil.jp