芸術家たちのミューズに視点を置いて、さまざまな愛に寄り添う

シューマン夫妻の歌曲は愛を語り合い、マーラーの妻アルマの歌曲は溢れるばかりの情熱を秘めている。アルマの3番目の夫となるヴェルフェルの詩による歌曲もあり、夫婦の心の距離を仄めかす。マーラーのリュッケルトの詩による〈真夜中に〉は、藤井が「希望と力を与えてくれる」として、どうしても歌いたかった1曲。孤独や不安から解放され、光が差してくる。
フランスの現代作曲家ニコラ・バクリは、リヨンのコンクールの課題曲で初めて知ったという。彼の歌曲とメシアンが最初の妻に捧げた歌曲で、フランスの愛のかたちを描く。そして、バッハのカンタータの編曲も手がける、藤井と同世代の山中千佳子の新作も期待大だ。古事記に登場する日本最古の芸能の女神アメノウズメが題材で、作詞は藤井自身による。
「歌曲は自分の内面を掘り下げていく作業」と語る藤井。作曲家のミューズに自身を重ねたり、客観的にアプローチしたり。彼女の歌は様々な世界を拓いてくれるだろう。ピアノは本山乃弘。
文:柴辻純子
(ぶらあぼ2021年2月号より)
2021.2/16(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
https://www.operacity.jp