水谷川優子(チェロ)& 黒田亜樹(ピアノ)

まさに変化自在! プリミティブで色彩感あふれるヴィラ=ロボスの世界

左:黒田亜樹 右:水谷川優子
C)Tommaso Tuzj

 これまでも共演を重ねてきた水谷川優子と黒田亜樹によるデュオが、初めてCDをリリース。収録曲の「黒鳥の歌」にちなみ『ブラック・スワン』と題したアルバムで、アマゾンのように未知なる魅力を秘めたヴィラ=ロボスの世界をチェロとピアノで解きほぐす。

水谷川「チェロ合奏ではあれだけ弾かれるのに、チェリストが小品や、ましてやソナタに手を出さないことを不思議に思っていました」
黒田「ヴィラ=ロボス自身がチェロを弾いていたのに、チェロのためのオリジナル作品にあまりスポットが当たってこなかったんです」

ブラジル風バッハだけじゃない!

 確かに言われてみれば、「ブラジル風バッハ第5番」以外のチェロ作品を知っている人は少ないだろう。あの哀愁ただよう音楽はキャッチーだが、ヴィラ=ロボスの魅力はそれだけではないという。

水谷川「バッハって古楽的に弾いてもロマンティックに演奏しても、あるいはジャズやロックにしても崩れない世界観があるじゃないですか。ヴィラ=ロボスも同じで、オペラ的にもボサノヴァのようにつぶやくように歌っても作品として成立するんですよ! どこからライトを当てても面白いことができる作曲家なので噛みごたえがあります(笑)」
黒田「特にソナタなんかは、弾いていると楽譜に書いていない音が聴こえてくるんです。シンプルな和声でも二重・三重のトリックが仕掛けられているので、私たちがどの道を歩くのか選ぶことによって、印象が大きく変わってきちゃうのが面白い。最後の『カイピラの小さな汽車』も私たちが弾くと、現代の快速電車のテンポになっているんですけど(笑)、それでいいのかなって!」

 こうした話を聞いていくほど、ヴィラ=ロボスとバッハは、一聴したサウンドこそ大きく異なっていても、共通項を多く持った作曲家であることが伝わってくる。実際の録音でも、オーケストラの編曲作品を得意としてきた黒田ならではの多彩な表現によって、ヴィラ=ロボスの持つ多面性をこれでもかと引き出している。まるで室内管弦楽とチェロが共演しているかのような色彩感は必聴だ!

世界に羽ばたくブラック・スワン

水谷川「これまで旅暮らしをしてきたのですが、この状況で羽根が折れてしまったような気持ちになっていたんです。でも、このCDに収録した作品が世界中の放送局で紹介されることで、音楽は自由に旅ができるんだと気づいて元気をもらっています」

 二人になり代わって旅をするCDの“顔”である、タイトルとジャケットにも強い思いが込められている。

黒田「アンコールでよく弾いてきたサン=サーンスの『白鳥』のイメージが強い水谷川さんが、ヴィラ=ロボスの音楽を通してプリミティブで野性味ある“ブラック・スワン(黒い白鳥)”に姿を変えていく…。みんなが知らない曲で、これまでとは異なる優子ちゃんの魅力を引き出したかったんです。撮影場所はファッションの街ミラノだったので、ピチカート・ファイヴみたいなイメージで撮りました」
水谷川「酸いも甘いも噛み分けて、転んでもただでは起きなかった二人なので、私にとっては場末の踊り子が“薄汚れちゃったけど頑張る!”っていう感じです(笑)」

 1月29日には、収録曲を中心に披露するコンサートも予定されている。
取材・文:小室敬幸
(ぶらあぼ2021年2月号より)

BLACK SWAN 〜ヴィラ=ロボスへの讃歌〜
2021.1/29(金)19:00 Hakuju Hall
問:オーパス・ワン03-5577-2072
http://opus-one.jp

※感染状況により変更が生じる可能性があるため、最新情報は上記ウェブサイトでご確認ください。

CD『ブラック・スワン』
ODRADEK/東武トレーディング
ODRCD406(輸入盤)
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