コンポージアム 2020「トーマス・アデスを迎えて」

英国が生んだ鬼才による圧倒的なスケール感の管弦楽曲を体感!

C)Brian Voce

 まずは誤解を恐れずに断言してしまおう。現在49歳のトーマス・アデスは、前衛的な現代音楽の作曲家というよりも、耳に残るメロディと美しいハーモニーを聴かせてくれるクラシック音楽の作曲家なのだと。

 例えば2021年1月末に結果が発表される第63回グラミー賞において、19年3月にキリル・ゲルシュタインによって初演されたばかりのアデスのピアノ協奏曲の録音が「最優秀現代クラシック作曲部門」「最優秀クラシック・コンペンディアム賞」のほか「最優秀クラシック器楽ソロ賞」にもノミネートされている。同じ部門で候補に挙がるダニール・トリフォノフのラフマニノフや、イゴール・レヴィットのベートーヴェンと並列で賞を競い合えるような魅力をアデス作品は持っているのだ。1970年代に亡くなったブリテンやショスタコーヴィチが早い段階から現代音楽というよりもクラシック音楽として受容されていったのと同じように、アデスの音楽も必ずやオーケストラの定期演奏会で普通に演奏されるレパートリーとなっていくだろう。

代表作をたっぷり堪能できる一夜

 そんなアデスの主要オーケストラ作品を一挙3作も聴ける、日本ではまだまだ貴重なコンサート「トーマス・アデスの音楽」が開催される。毎年世界の第一線で活躍する作曲家を一人取り上げつつ、武満徹作曲賞の審査も担ってもらう東京オペラシティの同時代音楽企画「コンポージアム」の一環として、当初は20年5月に予定されていたのだが、新型コロナの影響で21年1月15日に延期となっていた公演だ。

 1曲目はサイモン・ラトルによって初演され、26歳にしてアデスの名を一躍世界へと広めた出世作「アサイラ」(1997)。近年やっと日本でもアクチュアルな社会問題として意識される機会が増えた、セクシャルマイノリティの人々が抱える社会への不安や怒りを、音楽へと昇華した作品だ。聴きどころとなる第3楽章〈エクスタシオ〉では、若者たちがレイヴ・パーティーで踊り狂う様を描いており、誰もがその迫力に圧倒されること間違いない!

 2曲目は2005年に初演されたヴァイオリン協奏曲「同心軌道 Concentric Paths」。楽譜の表紙が、プトレマイオスの天動説に基づく地球儀のような図になっているように、天体の動きがテーマとなった作品だ。中心を共有する大小さまざまな同心円(Concentric)の絡み合いを、周期性の異なるカノンによって音で描いていく……なんていうと、小難しい現代音楽のように思われるかもしれないが、さにあらず。ストラヴィンスキーやショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲の延長線上に位置づけられるような、時に切れ味鋭く、時に叙情的な音楽を聴かせてくれる。

 3曲目は11年にマイケル・ティルソン・トーマスによって初演された「ポラリス(北極星)」。地球からは動きのない星にみえる北極星を中心に、他の星が回転していく日周運動をテーマにした作品である。やはりカノンを用いることで星が回転してみえる様を描いており、だんだんと夜空に吸い込まれていくような感覚にさえなってくる。至るところで神秘性を感じる響きに包みこまれる、非常にユニークな音楽だ。

 指揮を務めるのはトーマス・アデス本人の予定となっている。このご時世のため、予定通り来日できることを祈りたいが(注)、いずれにせよ貴重な機会であることに変わりはない。いつもの通り、チケットは採算度外視の格安設定なので、まずは良席を早めに確保しておきたいところだ。

武満徹作曲賞の行方にも注目

 あわせて、今年度の審査員をアデスがひとりで務める武満徹作曲賞の本選演奏会もオススメしたい。実は若手の才能を見出す場として以上に、審査結果を通して審査員がどんな音楽に未来を託したいのかが見えてくるのが、非常に面白いのだ。未来の大作曲家アデスが、どんな判断をくだすのか、ぜひ会場で注目いただきたい。
文:小室敬幸
(ぶらあぼ2021年1月号より)

(注)12月23日に政府が発表した、新型コロナ変異ウイルスの感染拡大を受けたイギリスからの入国禁止措置により、トーマス・アデスの来日は不可能となりました。公演内容に大幅な変更が生じていますので、最新情報は下記ウェブサイトでご確認ください。
https://www.operacity.jp/concert/compo/2020/

【指揮者・ソリスト変更】
2021.1/15(金)19:00 トーマス・アデスの音楽
トーマス・アデス(指揮)
 →沼尻竜典(指揮)に変更
リーラ・ジョセフォウィッツ(ヴァイオリン)
 →成田達輝(ヴァイオリン)に変更

【開催中止・公演中止】
2021.1/11(月・祝)19:00 トーマス・アデス トークセッション
1/18(月)19:00 リーラ・ジョセフォウィッツ&トーマス・アデス デュオ・リサイタル

2021.1/11(月・祝)19:00 トーマス・アデス トークセッション *中止
1/15(金)19:00 トーマス・アデスの音楽 *出演者変更
1/18(月)19:00 リーラ・ジョセフォウィッツ&トーマス・アデス デュオ・リサイタル *中止
1/19(火)18:30 2020年度武満徹作曲賞本選演奏会(審査員:トーマス・アデス)
東京オペラシティ コンサートホール(1/18のみリサイタルホール)
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
https://www.operacity.jp/concert/compo/2020/