新録音はチェロとギターで誘う“音楽の旅路”
日本チェロ界のトップランナー宮田大が、ギターの大萩康司とのデュオという、レアな編成のアルバム『Travelogue(トラヴェローグ=旅行記)』をリリースする。チェロとギターによる音楽の旅路。2021年5月には発売記念の全国ツアーも予定している。
「ギターとのデュオ、というより、ぜひ大萩さん──“やす兄(にい)”と一緒にやりたかった。とびっきり大らかなのに、演奏になると豹変して、顔の表情も豊かに、気持ちを音に乗せてくる。人間性と音楽性がハンパなくシンクロしている人です」
1曲目の「キャラバンの到着」(ルグラン)から、2人の世界に引き込まれた。原曲のビッグバンドよりぐっと洗練されたサウンド。チェロとギターという編成の魅力を、「ちょっとした隙間」と独特な表現で語る。
「音楽のなかに空間があって、聴き手に無理に押しつけない。だからそのときの感情によって、聴くたびに感じるものが変化してくれたらうれしいですね」
ラストの「ブエノスアイレスの冬」など3曲のピアソラ作品では、「2つの楽器に共通する、むせび泣くような音色」が映える。
特殊な編成だけに、収録曲は彼らのための書き下ろしアレンジ。なかで唯一、ブラジルのラダメス・ニャタリ(1906〜1988)のソナタだけは、最初からこの編成で書かれた貴重な作品だ。ほの暗い情熱と開放。
「めちゃくちゃいい曲。人間のドロドロな感じで始まって、最後はサンバを踊るように華やかに終わるのはさすがブラジルらしい」
ギターとの共演で一番意識するのは「弱音」だという。
「消えてしまいそうな、絹の糸の一本だけでつながっているような表現。休符の無音の時間も、音楽になって現れる。ライブでも、無伴奏を弾いている時に近い集中力を、お客さんからも感じます」
一方、現在は2020年12月から続くソロ・ツアー中。1月には東京、川崎、大阪で3公演がある。プログラムのメインは「一番好きなチェロ・ソナタ」と語るラフマニノフ。
「思いを乗せやすい曲で、心臓のバクバクを全身で感じます。2ヵ所ほど、毎回必ず感極まってウルウルくるところがあるんです」
このツアーのために委嘱したトランスクリプション、「シェヘラザード」による「アラビアン・ウェーブ・ファンタジー」(山本清香編)は、この3公演でしか聴けない贅沢な贈り物。必聴だ。ピアノの福間洸太朗との初共演というのも間違いなく興味をそそる顔合わせ。
また、オンラインによるリモート参加型動画企画「宮田大 with チェロ・オーケストラ」が展開中。コロナ禍で演奏の機会を失ったアマチュア奏者たちをメインの対象にした、誰でも無料で参加できるミュージック・ビデオ制作プロジェクトだ。チェロ弾きなら見逃せない。詳しくは公式サイトで。
このほかにも2021年は、尾高惇忠のチェロ協奏曲や菅野祐悟のチェロ協奏曲の世界初演などが待っている。Travelogue──宮田大の新たな挑戦の旅路にも終わりがない。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2021年1月号より)
宮田 大 チェロ・リサイタル
2020.12/27(日)14:00 栃木県総合文化センター
問:028-643-1013
12/28(月)19:00 福岡シンフォニーホール
問:エムアンドエム092-751-8257
2021.1/8(金)19:00 紀尾井ホール
問:Mitt 03-6265-3201
1/9(土)13:30 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:神奈川芸術協会045-453-5080
1/10(日)14:00 住友生命いずみホール
問:リバティ・コンサーツ06-7732-8771
https://daimiyata.com
CD『Travelogue』
日本コロムビア
COCQ-85518 ¥3000+税
2020.12/23(水)発売